幻のイヌワシは再び幻と消えるのか? |
イヌワシもクマタカも環境省レッドデータブックに絶滅危惧ⅠB類として載せられている「絶滅が危惧される」種である。
徳山ダム集水域には、イヌワシ5つがい、クマタカ17つがいが棲息しているという。


写真 左=イヌワシ(幼鳥)
右=クマタカ
北方系のイヌワシと、南方系のクマタカが、かくも多く棲息しているところは他に類例をみない。それだけ、この徳山ダム集水域は、イヌワシにとってもクマタカにとっても豊かに暮らせる場所であった。同時に、他に安心して棲息できる場所が少ないから「絶滅危惧種」なのである。 日本の自然が貧しくなっている。
事業者(水資源開発公団-水資源機構)はイヌワシ2つがい、クマタカ9つがいを「事業によって影響を受ける可能性がある」として調査対象としてきた。
いや私たち、「徳山ダム建設中止を求める会」が「調査」を開始させたのである。
1996年3月、「徳山ダム集水域には、クマタカはもちろん、名も挙がっていないイヌワシがいる!」と指摘し、「徳山ダム建設中止を求める会」として徳山ダム建設事業審議委員会の要望書を出した。この要望書提出の動きを知って、はじめてこの地域にイヌワシも棲息していることを認めたのだ。

右は、1996年のの記事の一つである。
一連の記事をPDFファイルで掲載する。(6枚)
徳山村でクマタカが、毎日のように人の暮らしの場所で見られること、そして少し奥にいけばイヌワシも見られることは、この地域の野鳥愛好家なら誰でも知っていた。そして、水資源開発公団は、この地域の著名な野鳥愛好家に依頼して、徳山の鳥類の調査を行ってきたのだ。なぜこの時(1996年3月)まで、イヌワシの存在を明らかにしなかったのかは、依然不明である。
そして1999年に西谷への道路の工事現場近くでクマタカが営巣・育雛していることを確認して通報・公表したのも(工事を止めさせねばならなかったので)、事業者が依頼した「専門家の先生方」ではなく、一般市民であった。
「猛禽類保護の観点から」真っ当なことをしてきたとは思えない事業者や「委員の先生方」が情報を独占し、保護・保全を訴えてきた者は情報から排除される。
環境行政にとどまらない、今の行政等のあり方を象徴している。
(生物多様性の保全を国際公約としている日本の環境行政のお粗末さ(自然の人為的改変-「開発」-に何の口を挟むこともできず、しようともしない)に対する何年にもわたるバトルについては別稿で。)
2008年11月27日、 第4回「徳山ダムモニタリング部会」が開催された。
(徳山ダム管理所ホームページのトップページからこのページに行き着くのは容易ではない。こんなところにも「見守っていこう大作戦(徳山ダムモニタリング部会等)」のホントの位置づけが見える)
肝心なことは「猛禽類保護の観点から」隠されている。

報告する側の水資源機構は淡々と単調に多くの報告をこなす…「特に変わりはありません」と言いたいのだから、「単調に」こなすことが重要。何も頭に入らず、ひたすら眠い。報告の区切りで部会長が「ご意見を」というが、委員はとりあえず誰も何も言わない。それではマズイので、何とか発言らしきものを引き出す…けど正直ツマラナイ発言・意見しか出てこない(第3回までの繰り返しだったり、当たり前すぎて言う意味もないようなことだったり)
ある種面白かったのが阿部學委員の発言である。「目視で調査しても、尾根の向こうは見えない。最近の人工衛星を使った調査で、目視で調査してきたこととは随分違った知見が得られた。クマタカの『巣立ち』が報告されているが、巣立ちしたから良かった、ではすまない。巣立ちした幼鳥がどこかで定着してペアを形成して繁殖していかねば、絶滅は避けられない。50km~60kmくらい離れたところで定着する、という報告もある。GPSなどをつけて調査しないと、このような調査を続けても意味がないのではないか」。
最後に審議メモをまとめるにあたり、阿部氏の上記発言は抹殺されそうになった。阿部氏は「自分がここに出席している以上、この発言は記録にとどめてほしい。事業者が実際にやるかどうかは、事業者の判断だが」と頑張った。いかにも阿部學氏らしい。
政府は(環境省は)、事業者は環境省(環境庁)の「猛禽類保護の進め方」(1995.「保護の進め方」にはなっていない、「調査の進め方」というべき内容)に沿って調査をやれ、という。繁殖期の工事では、騒音などに注意しろ、とも。
また徳山ダムでは機材を水色に塗って-随分お金をかけたそうだ-「猛禽類保護」と喧伝した。もっともこれは効果らしきものはなかったようで、ある時期から使い始めた機材は、すべて普通にド派手な赤や黄色であった(工事現場では人間が機材を機材を認識できるように、わざと彩度の高い色を使用している)。
しかし、事業者は事業者である。
水資源機構という組織の存在目的は「ワシタカ類保護」にはない。
私たちが「生態系の頂点に立つアンブレラ種であるイヌワシ・クマタカの保全に何の施策もないまま湛水開始という不可逆的自然改変を行って良いのか?」と問うていたとき※の事業者の回答は一貫して「モニタリングを行います」であった。
このモニタリング部会の委員である阿部學氏が「このままでは絶滅を見守ることになってしまう」という意見を黙殺して(阿部氏と私たちとは、立場・見解が異なるが)ひたすら「事業関係地域で『見守る』ことが唯一の保全策」であった。
※試験湛水を目前にしての徳山ダム建設中止を求める会からの要望書
2006年4月21日環境大臣宛&国交大臣宛要望書
2006年9月151日環境大臣宛要望書
巣立ちまでは観察するが、その後は「知らない」。巣立ちをし、ある程度までは親に育てられた若鳥は、やがてこの場から去る(去らねば繁殖地を見つけられない)。事業地から遠くでフローターとなっているのであろう…・そしてその若鳥が次代を産み育てるようにどこかに定着したかどうか…。
「新しい知見(GPS)に基づく人工衛星追跡調査の手法についての提言がなされた」として、「徳山ダム管理」として支払われる限られた管理費用で、その手法を実行できる可能性は存在するのか?
アンブレラ種なればこそ、広域的に移動する。全国的な調査と保全対策を「徳山ダム」の管理者に要求できるのだろうか?
土台無理があると思う。
「建設-人為的改変」を行う省(ex.国交省)には予算があっても、環境省は権限も予算もない … それが日本の環境行政の「現実」である。
徳山ダムは造ってはならないダムであった。
「日本一のダム」を喧伝しても、徳山ダムで故郷を水底に沈められた人々の心は決してしずまらない … 「浮いてまう」。
徳山の森に生きてきたイヌワシ・クマタカも、棲息地を奪われつつある。(特にイヌワシが危うい。「第4回モニタリング部会」でもほとんど情報がなかった。隠されている中には、せめて生存している、という情報はあるもだろうか?個体はいつかは死ぬ。繁殖し、新しいペアが定着しなければ、やがてこの地からイヌワシは消える。)
生物多様性COP10を名古屋で開くというが、その名古屋の水を確保するとして造られた徳山ダムが、絶滅危惧種を絶滅に追いやっている。
1996年に突如として徳山ダム集水域に「(社会的に)現れた」イヌワシは、巨大なダム湖の出現によって消えていくのか?
2000年8月、徳山村の西谷の奥の門入集落の地で「恒例 徳山村キャンプ」を行っていた私たちは、イヌワシの幼鳥(白い斑点ではっきりと分かる「三つ星鷹」)と親鳥が2羽、合計3羽で、近くの山の稜線の上を飛び回るのを見た。きっと、親鳥が幼鳥に、飛翔か採餌を教えていたのであろう。
3羽の親子のイヌワシが悠々と大空を舞う … あれは再び見ることの叶わぬ夢か?
幻のイヌワシは再び幻と消えるのか?

この世に、イヌワシがいなくなったら、どうやって再生できるのです
か・