義烈~犀川騒擾事件と安八~ |
揖斐川左岸(大垣市の対岸)安八町の「ハートピア安八-歴史民俗資料館-」の企画展として「犀川騒擾事件」を取り上げると、1月10日付けの中日新聞西濃版「犀川事件知って」を見て知った。
お恥ずかしいことだが「犀川騒擾事件」のことは、全く知らなかった(と、ダム・河川の運動を共に担っている人たちに言ったら「知らなかったとはオドロキだ」と言われた。この辺りに住んで、多少なりとも、川のことや地域の歴史に関心をや川のむ人間にとっては、一種の「常識」だそうだ。「常識」だから、特に話題にならない(亡夫が生きていれば、どこかの時点で話が出たと思う)。
1月25日に観に行った。展示の一例を下に。
展示とパンフレットでは今ひとつ分からなかった。
ただ、企画の名称に「義烈」という言葉(これは「犀川事件碑」に刻まれた言葉)を入れ、「郷土を守る為 毅然と国に立ち向かった人々がいた … 」とポスターに書き込んだ企画者の思いは伝わる。
8頁のパンフレットをPDFファイル版で掲載する(2MB超)。
1928年(昭和3年)に、帝国議会で本巣郡南部の悪水を(下輪中である)安八郡の輪中堤を切り通して(集落を切り裂いて)長良川に流す計画の「測量」予算がついたらしい。このときに、どういう計画に基づく予算であったのかは鮮明でないと聞いた(官僚的に言えば「測量」段階なのだから未定)。ただこの掛け軸にもあるような「案」が以前から存在し、その方向での予算がついたという認識が地元に存在した。そしてそれは事実であったのだろう。
輪中を壊し、村を切り裂く「お上」の方針に反対して住民は決起した。軍隊も出動し、多くの検挙者が出たが、「輪中を壊し、村を切り裂く」案はなくなり、輪中は守られた。これを「義烈」として碑が建てられている。
展示を見に行った際(09.01.25)、事務室で伺った話。
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本巣郡南部の「悪水」処理は、かなり古くから問題となっていた。木曽川三川下流域の改修工事が大体終わった大正期には、木曽川上流域の河川改修が具体的に問題となってきており、その中で、本巣郡南部の「悪水」処理のために下流域の輪中堤を切る案が浮上していたようだ。(輪中堤を切って町・村を分断する計画案は)明確に提示されたものではなかったが、この「事件」の頃には風聞として相当に広がっていた。
この「事件」もあって、結局のところ町(村)を分断する計画案は消え、「黒色」の案(パンフ2ページ上段中央)になった-新犀川-。
越流はもちろん怖いが、堤防の下を通って水がしみ出してくるのが問題。水防団活動の継承・強化が必要と思う。年に一度でも訓練していけば技術-月輪工法とか-は引き継がれる。
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「岐阜県史(1967版)」「木曽三川の治水史を語る(1969 木曽川上流工事事務所)」「木曽三川治水百年のあゆみ(1995 企画 建設省中部地方建設局)」の該当・関連箇所にざっと目を通したが、やはり今ひとつ分からない。「該当・関連箇所にざっと目を通す」ということでは、理解できない事柄だ、ということだけは分かった。
(「木曽川下流域を中心とする『近代治水』(デ・レーケ治水?)に引き続く木曽川上流域の『近代治水』」の骨格的な理解がないと分からないだろうことが分かった)
また、この「事件」に特に着目するなら、パンフレットの元資料である「犀川騒擾事件史」を読むべきだろうが、そこに至っていない。
木曽三川の治水資料のリストは木曽川文庫/所蔵図書一覧が充実している。
(ウラガネづくりとしか思えない「続 木曽三川の治水史を語る」はここに所蔵されていないようだ。)
「お上には逆らわない」気風の強いこの地域で、1976年の長良川決壊(「安八切れ」)の際には大きな訴訟団が形成された背景には、この犀川騒擾事件(「義烈」として地域住民に記憶される)があった、と安八・墨俣水害訴訟の代理人を務めた弁護士から教えられた。
しかし上記の新聞記事にもあるように、この「義烈」の記憶も風化し、安八・墨俣水害訴訟の敗北(さてもにっくき大東水害訴訟最高裁判決!)もあって、このことを積極的に語る人は少なくなっているようである。
1976.9.12の「安八切れ」では、安八町氷取にある亡夫の親類のI家も水浸しとなった。I氏の「柳川星厳コレクション」が数日後に県企画のために運び出されることになっており、蔵の高いところから下に降ろしてあって、モロに水浸しになったのだそうである。「バケツをひっくり返したような豪雨が長く続いた」後の1976.9.12の長良川決壊である。まさに地付きの人間であるI氏が、何の警戒もせずに大事なコレクションを、わざわざ低いところに降ろしていた、というところに「近代治水への過剰な期待と根拠なき安心」(=マインドコントロールの類)の恐ろしさを感じた。
ハートピア安八の敷地内にも自噴の井戸や泉がある。
上輪中・下輪中/水論/水害/水防 …
岐阜県が6月に大垣市で行うという「治水-日蘭シンポ」では、これらの歴史をどう扱うのだろうか?
(090110中日新聞記事)
参考資料:
「犀川河川整備計画」(岐阜県 2004年12月認可)