徳山ダム湛水誘発地震?? その3 |
◇「ダム湛水が地震を誘発する」-2
以下は、2003年10月15日に作成したもの。
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長野県西部地震は牧尾ダム(御岳湖)の湛水に伴うダム誘発地震である可能性が非常に大きい(=地質学者 生越忠)と考える学者は何人もいます。
この地震発生直後の84年9月、10月の複数の新聞に、「牧尾ダム犯人説」が紹介されています。
(1)1984.9. 毎日新聞
「<1982年に72歳で没した島田安太郎さんの研究> (略)
「小林信彦・富山大教授(地質学)の話 島田さんのデータは学界でも知られている。ダム地震説については黒四ダムで立証されている。ダムの水位が上がれば地震の発生は増え、水位が下がると減る。」
「飯田汲事・愛知工大教授(地震学)の話 私も八年前、牧尾ダムについて貯水量と地震の関係を調査した。・・・・ダムにたまった水の圧力で破砕帯に浸透していることが考えられる。」
(2)1984.9.30 神奈川新聞
「外国においては、中国の新豊江ダム(115億トン)、インドのコイナ・ダム(27億8000万トン*)、ギリシャのクレマスタ・ダム(47億5000万トン)などで起きた地震が有名。これらはいずれもダム建設が原因とされ、M6以上で死者が出た。」
「牧尾ダムが・・・根本原因を作ったという考え方については、ほとんどの地震学者が反対する。・・・地殻のゆがみを抜きにしては、今回のようなM7クラスの地震発生は考えられないからだ。とはいえ、ダムの存在が、いずれ起こるはずの地震の発生を早めたのではないか、の疑問は依然残る。」 * 近藤注 1967年にM6.4の地震
(3)1984.10.10 中日新聞 (PDFファイル)
ダムが地震誘発!! 科技庁・地震活動研究室長 大竹さんが学会で発表へ
「”ダム-地震関連説”を発表するのは科学技術庁・国立防災科学技術センターの地震活動研究室長、大竹政和さん(四四)。・・・『関連あると断定しているわけではないんです。可能性があるので、これから研究を進めなければいけないということなんです』と前置きして-。『日本にある高さ百メートル以上のダム四十二カ所について、建設前と建設後の微小地震発生件数を調べた。このうち八カ所では、ダム建設後に周辺で地震が増えていることがわかったんです』」(略)
「『一つは大きな加重が働いてしたの岩盤が破壊される。もう一つは、水が地層に浸透して岩盤を弱くするということですね』大竹さんは二つのうちでも水の浸透の可能性が強いという。」
「ダムと地震が関連あるとすると、これは大変な問題なのだが、こうした研究は『日本では遅れている』と、大竹さんは指摘する」
1984年の学会発表のあと、研究が進められた形跡が見あたらない。少なくとも建設省(国交省)は「牧尾ダム・原因説」を明確に否定するものをもっていないことは確かです。
1996年の徳山ダム審議会(第八回8月20日)において、6月の公聴会で指摘された事項について審議委員の方から事務局に説明を求めたことに対する事務局(建設省中部地建、水公団)の説明によると 「全世界のダムで湛水によって地震が誘発された、あるいはその疑いがあるという報告が記載されている論文がある。それによると、マグニチュード5以上の中規模以上の地震について、20億m3以上の巨大な海外の貯水池で誘発地震ではないかとの報告例がある。日本には徳山ダムも含めてそのような大きな貯水池はない。したがって、大規模な地震が貯水によって引き起こされることはないと考えている。」とのこと。これはH8(1996)年2月22日の参議院建設委員会において、大渕絹子委員が丹生ダムについてした質問に対する中尾建設大臣の答えに政府委員(建設省の役人)が補足したものと同趣旨です。
これで「徳山ダムの湛水で誘発地震を引き起こすことはないのだ、安心だ」という説明になっていますか?
そう、建設省(国交省)は「大規模な地震が誘発されることは無い」とはっきりとは言ってはいない-責任を持って否定していない-のです・・・さすが官僚です!
上記の(1)(2)の2つの新聞記事コピーは、ある旧徳山村住民から頂いたものです(他にたくさんの70年代、80年代の新聞記事とともに)。その方のお話ですと「長野県西部地震の問題が徳山ダムでも起きないかと心配された岐阜大学の先生が居られて、村民(の一部)も調査を手伝ったことがある。ところが、あるときこの先生が余所の大学に移られて、以後このことは全く言わなくなってしまった」
(3)の大竹氏が指摘する「日本での研究は遅れている」のが、その後さかんに研究されたという形跡もない(研究の上、ダムは地震誘発に関係ないという説が多数になったのなら、建設省-国交省がそれを持ち出さないはずがない)
何の確証もありませんが・・・憶測・推測、いやが上にもたくましくなりますよね。
そういうわけで、深さ160m、6億6000万トン(浜名湖の2倍)の水を活断層(揖斐川断層)の上に貯めて大地震を誘発する心配がないといえるのかどうかは「やってみなくちゃ分からない」?!
大滝ダムの例を見ると、本当に「やってみなくちゃ分からない」という程度のことで巨大ダムが作られていくのではないか、とぞっとします。
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04年8月に、私は、大竹政和先生に手紙を出しました。(PDFファイル版)
結果的には「20年前にいったん区切りをつけて、その後はやっていない-新しい知見がない-研究について話をすることは、研究者としてはできない」とお断りを頂きました。しかし同時に「当時発表したことは間違っていなかった、と今も思っている。他の研究者によって、その後の検証の研究がなされなかったことは非常に残念に思っている。建設省からの圧力もあったようなことも耳にしている」とのことでした。