徳山ダム導水路の目的は異常渇水時の断水防止? |
昨年9月、「晴れて」水資源機構が事業承継をした木曽川水系連絡導水路(徳山ダム導水路)事業は、5月15日の河村たかし名古屋市長の「撤退意向表明」から、8月末の総選挙での民主党の大勝、そして9月16日の前原誠司・国交大臣の就任で、一気に事業存続そのものが揺らいでいる。
9月24日に、河村たかし名古屋市長が前原大臣に会いに行ったことも、凍結-中止に向けた動きを加速するだろう。
「徳山ダム導水路はいらない!」と言い続けて来た者にとっては、ワクワクと喜ばしい。
9月25日には、前原誠司・国土交通大臣宛の要請書を提出するために、国土交通省の出先機関・中部地方整備局を訪れる。要請書とともに、辻元清美・馬淵澄夫・両副大臣と合わせて3名宛に、私たちの主張を伝える資料を渡す。
そしてその前に中部地整前で宣伝行動を行う … 自衛隊イラク派兵差止訴訟で、裁判所前でシツコク宣伝活動をしていたが、(そこからほんの300mほどの)「中部地整前」での「ダム・河川問題」宣伝行動は、初めてである。
やる前から一種の感慨を覚える。
◇ ◇
「事業の凍結-中止」が見えてきたからこそ、その中味についての検証はさらに必要であろう。
(もっといえば、木曽川水系連絡導水路事業の法的手続きによる「正式な中止」にあたっては「長良川河口堰とは何なのか?徳山ダムとは何なのか?」・・・その計画自体、計画の変遷、村人や漁民に与えた(金銭に換えがたい)苦痛、事業実施におけるさまざまな「問題-不祥事-」等々、きちんと検証・総括の議論をして欲しいと願う)
岐阜県が事業目的であるかのように言ってきた「東濃・可茂用水がラクになる」という話をもう一度検証しておきたい。
まず、国(中部地整)は「東濃・可茂用水がラクになる」ということは、積極的に肯定はしていないことをはっきりとしておこう(正面から否定もしていない-ここが「国」のズルイところである)。
出向してきた霞が関の河川局キャリアの河川課長の下で岐阜県は「東濃・可茂用水がラクになる」という理屈を捻りだした。「国-河川局」のお墨付きがあるのだ、と岐阜県職員は勝手に思っていたようだが、そこは「出向中-岐阜県河川課長」の間は、(実際は本籍・河川局とツーツーでも)いかなる意味でも国-河川局を代弁しているわけではない。別の言い方をすれば本籍・河川局に戻れば「それは岐阜県さんが勝手におっしゃっていることで、国の立場とは違う」と平然といえる、それが”キャリア官僚”というものである。
1.木曽川水系連絡導水路の事業実施計画では緊急水は水道水にはならない
「計画上は緊急水が水道水になることはありません」
が、異常渇水時には河川法53条(渇水時における水利使用の調整)が出てくるから、水があれば利用できるかもしれない、というような含み的な部分をちらつかせる。
☆ 徳山ダムに係る導水路検討会第7回(H19.8.22)関係資料
「説明資料」p2&p3の計算の前提となっている需要量は「2015年フルプラン」の水量。 ここですでに「架空の話」になっている。
2.水系総合運用・・・永遠の画餅
「水資源開発施設の整備と水系総合運用の関係について」 H19.2.26 中部地整
徳山ダムに係る導水路検討会 第5回幹事会資料 p34
① 「この水系総合運用の基本的な考え方は、徳山ダムには・・・底水・堆砂容量が約2億8千万m3あり、・・・この量を担保として計画規模の渇水時においても ・・・利水容量及び不特定容量分の水量をほとんど節水せずに使い切れるようにすることになる。」
② 「・・・導水条件として制約のある徳山ダム、長良川河口堰の水を先使いするためには、水運用の順番を現状と根本的に変える必要があることから、少なくとも各利水者がフルプランに基づき計画規模の渇水に対して計画上必要な水源施設を整備した上でなければ水系総合運用は実施することはできない」
①について:計画規模渇水で「(徳山ダムの)利水容量及び不特定容量分の水量をほとんど節水せずに使い切れる」ようにすることが眼目なんですと!
しかも②で明確に述べているように「各利水者がフルプランに基づき計画規模の渇水に対して計画上必要な水源施設を整備した上でなければ水系総合運用は実施することはできない」のだから、木曽川水系連絡導水路以外に、愛知県は長良川河口堰の未利用分の、名古屋市は長良川河口堰の、取水・導水施設を(利水者の責任において)整備しないと、水系総合運用は実施することはできない。
・・・・つまりは木曽川水系の「水系総合運用」というのは、永遠の画餅。
(他はともかく、岐阜県は絶対に「フルプランに基づき計画規模の渇水に対して計画上必要な水源施設を整備」できない。そこでさすがにこの「各利水者がフルプランに基づき計画規模の渇水に対して計画上必要な水源施設を整備した上でなければ」のところで、岐阜県が大垣地域への供給分として徳山ダムで確保した水のことは触れないようにしている、ここもズルイ)
徳山ダムに係る導水路検討会 第5回幹事会(2007.03.16 ) 資料
資料3 水系総合運用
徳山ダムに係る導水路検討会第7回(H19.8.22)関係資料
説明資料 p4,p5 「水系総合運用」
3.木曽川水系連絡導水路(徳山ダム導水路)の「利水安全度向上」のご利益とは
(1)ダム乗り水源と取水の1対1対応の法令上の根拠について

「水源と供給先」の表
第7回木曽川水系流域委員会 資料5 p20
この表のような事柄は(河川法53条が適用されるとき以外は)「ガチガチの変えようのない前提」みたいな話として、一切の「弾力的運用」を許してこなかった。その固い「縛り」が、たかだか河川局長通達の中にある「水利使用規則-標準例」の慣行的適用にすぎない、と分かって力が抜けてしまった。ここが弾力化できない、として数多くの「水源施設」を作る理由にしてきたのに・・・何なんだ?!?!
★ 河川法23条
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☆ 河川法施行規則第十一条 水利使用に関する法第二十三条 、第二十四条、第二十六条第一項又は第二十七条第一項の許可の申請は、別記様式第八の(甲)及び(乙の1)による申請書の正本一部及び別表第一に掲げる部数の写しを提出して行うものとする。
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「河川法の施行について」(S40.6.29 河川局長通達)
三.・・・別表第一・・・
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水利使用規則 (水利使用規則「標準例」)
(2) 徳山ダムの水の「先使い」と東濃・可茂用水
この「水利使用規則」をいじって、水源ダムの順序を外す予定だとか(それで徳山ダムの水が先使いできる、ということ)。
愛知県と名古屋市が徳山ダムの水を先使いしてくれると(他人頼み)、木曽川上流ダム群のダム貯留量が温存されて、岐阜の東濃・可茂用水も取水制限のかかり方が遅くなる(取水制限の日数が少なくなる)だろう、というお話。
こんな回りくどい「反射的効果」にお金を使うより、農業団体に頭を下げるほうがよほど早い。
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国土交通省土地・水資源局水資源部(水部)が出している「日本の水資源H19年度版」にある「総合的水資源マネジメント」と、中部地方整備局の「水系総合運用」は真逆の発想である。
かたや「新たな施設(ハード)建設は抑制してソフト的に対応していく」、かたや「フルプランで必要とされている施設は(実際に要ろうが要るまいが)全部作れ」。
同じ国土交通省から、同じ時期(2007年8月)に、似たような用語で真逆なことが提示されている。
用語と概念を作りだし、説明資料を作っている当の役人さん達が「こんがらがっていてよく分からない」状態なのだから「説明責任」を要求しても何も出てこない・・・
(皮肉っぽく言えば、地整-河川局は「建設省」のDNAで建設したがり、水部は「国土庁」を引きずって、新たな概念を作出することこそ仕事なのだ、と考えれば話は合う)
この「日本の水資源H19年度版」が出されたとき(2007年8月1日付け)、水部の「日本の水資源」担当責任者U氏は、張り切って、「総合的水資源マネジメント」を強調してくれた。
その直後に徳山ダムに係る導水路検討会第7回(2007.8.22)関係資料で「水系総合運用」を聞かされた私は、その異同をU氏に尋ねた。
大まかに言えば「中部地整のいう『水系総合運用』はよくは分からない。水部の立場は『総合的水資源マネジメント』だ」との返答。「????」である。
U氏は2007年3月末まで愛知県に河川課長として出向していた人である。翌年に「徳山ダムに係る導水路検討会 幹事会資料」を公開させて、2007年3月、U氏は愛知県河川課長と」して、中部地整の「水系総合運用」の説明をしっかり聞かされたはずだと分かった。
なかなか惚けぶりが見事で、「騙された」。
とはいえ、世の中は、もう「無駄な土木施設建設」を許さない。
そして、「治水」の重要性が減じたわけではない。
国交省の河川官僚よ!
自分たち内部で訳の分からない混乱を起こしていてどうする!
もっとしっかりせぇ!
↑
もしかすると私は河川官僚さん達の強力な応援団なのかも~。
◇ ◇
すっかり秋の空。自宅前で空を見上げて。
