前提事実が変化したけど「公表しない」?!・・・・③ |
~ 承前 ~
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河川事業を行うとき、河川管理者は「委員の先生方のご意見を聴く」ことを錦の御旗にします。
ヘンテコ導水路も、木曽川水系流域委員会の「委員の先生方のご意見」を拝聴したことになっています。そして、実際に辻本哲郎・木曽川水系流域委員会委員長は、この導水路事業にはいたくご熱心であらせられて、「事業の意義の説明」にモタついた(※)お役人を叱りとばし、その勢いで「どこかの要領の悪い流域委員会みたい」と口走ってしまって新聞ネタになりました。
※ 伊藤達也さんの「意見書(*)」が出ていたもので、それを意識して、あれこれの言い訳と予防線でモタモタと長引いたのです。私は、傍聴していて「ああ、これに対する言い訳」「今度はあそこへの予防線」と興味深く聞いていましたが、委員達は(多分、そのときは辻本委員長も)「伊藤意見書」を読んでいなくて、ひたすら「モタモタして分かりにくい」としか思えなかったのでしょう。
* 木曽川水系河川整備計画 「関係住民の皆さんから意見をお聞きしました」 第7回流域委員会 分に掲載されている。
また、若干の加筆訂正を経て「水資源計画の欺瞞~木曽川水系連絡導水路計画の問題点~」として(株)ユニテから出版されている。
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岐阜県は「「可茂・東濃地域での渇水被害が大幅に緩和される」という効果は、国交省がそう説明した、と言います。
徳山ダム導水路を作って、名古屋市や愛知県が「徳山ダムの先使い」をしてくれれば、その反射的効果として木曽川上流ダム群の貯留水が温存され、節水日数が減るだろうから、岐阜県にメリットがある、と。
しかし、「先使い」論を持ち出すなら、岐阜県自身が水源費を(一般会計から!!)払ってしまって「開発」したまま使い道のない(=取水制限がかかるようなときは、事実上不特定容量か、あるいは愛知県や名古屋市の取水に差し出してしまっている)膨大な「未利用水」について、「河川管理者と交渉して、有効に利用できるようにする努力をする」のが先でしょう。
だのに、これには手をつけようともしない・・・どころか「需要量が少ない」と水利権量を切り下げられてしまっている有り様・・・この状態でなお直轄負担金を負担してまで「効果」の不確かな導水路事業を「必要だ」と強弁するのはヘンです。
岐阜県の「可茂・東濃地域での渇水被害が大幅に緩和されるという効果がある」論の根拠は、ひたすら「国からそういう説明を受けた」というだけのようです。
そして国の公表資料で「それらしきもの」が記載されているのは、<第7回木曽川水系流域委員会 資料-5>しかありません(その直前の07年8月22日の「徳山ダムに係る導水路検討会 第7回」資料より詳しいものとなっている)。この資料のときと、今(09年4月3日に変わった)とは数字が異なる-水利権量が切り下げらている-のだから、話は違うのではないの?と言いたくなります。
(はっきりしないが、同じ資料-5で取水制限日数などを示した表は、未利用水もフルに使っているという前提らしい・・・とすると、水利権利量を切り下げても、「取水制限日数」は変化しないことになる。しかし「未利用水もフルに使っている」前提でのシミュレーションなのだとしたら「現実離れしたシミュレーション。バカバカしい。資料の価値もない」と断ずるしかない)
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岐阜県の落合での許可水利権水量は毎秒1.900m3から毎秒1.642m3へと秒あたり0.258m3も少なくなっています。
そして「牧尾・阿木川・味噌川」の3ダムの統合運用を行うことにしたようです。
「『先行開発ダムから(水を)使っていく』と固く縛ったのでは、先行開発ダムが先に枯渇してしまうのは当たり前。統合運用をすべきだ」とかねてから、市民・研究者に指摘されている(※)「複数ダム統合運用」をすることにしたのです。
※ 長い間、河川管理者は、「それはできないことになっています」と突っぱねてきた。「できない」のではなく「やらない」に過ぎなかったことは以下の記事をご参照下さい。
bog 徳山ダム導水路の目的は異常渇水時の断水防止?
3.木曽川水系連絡導水路(徳山ダム導水路)の「利水安全度向上」のご利益とは
(1)ダム乗り水源と取水の1対1対応の法令上の根拠について
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毎秒1m3という水量は、決して少ない量ではありません。そして徳山ダムでは、(都市用水全体を均して)毎秒1m3の水源開発に約143億円の建設費をとっています(金利等を除く「真水」分)。
この『単価』は他と比べて高いものではない、と国交省や水機構は言います。つまり岐阜県は、今年4月に、『フツーの単価』で計算して、37億円近い額にあたる「木曽川上流ダム群」の開発水を「返上」している(又は「召し上げられている」)ことになります。
09年10月現在の岐阜県の開発水量(&水利権利量&未利用水)PDFファイル
表でも分かるように岐阜県は驚くほど多くの「未利用水」を抱えています。水源開発費としてダム建設にお金を払ったが、需要が発生しないので使わない、使えない(水利権許可が出ない)水です。こうした水を多くをもっているということは、「見通しを誤って余分な買い物をしてしまった」ことに他なりません。この「見通しの誤り」は、岐阜県の財政を、つまりは岐阜県民の暮らしを直撃しています。
長良川河口堰建設のとき、市民側から「岩屋ダム(1977年運用開始)で木曽川フルプラン水系の供給水源は足りている、長良川河口堰は不要だ」と数字を挙げた批判がありました。岐阜県は長良川河口堰の利水者ではありませんが、この批判を耳にしていない、などとは言わせません。
「水は余っている」という多くの論証を無視して、岐阜県は徳山ダム建設を推進しました。
言うもアホらしい(大垣地域に供給されることになっている!!)徳山ダムの水以外にも、岐阜県は岩屋ダム・阿木川ダム・味噌川ダムで莫大な水源開発費を支払いました。
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これらの多くのダム開発(とりわけ徳山ダム)で、岐阜県の財政は火の車です。
「開発・開発」とやみくもにダム建設に乗っかって、基金を取り崩し、県債を発行し・・・結局、水の代金償還を一般会計からしなくてはならなくなっています。そして現在、岐阜県の一般会計は、職員の大幅賃金カットをしても、来年度の予算編成に立ち往生している有り様です。
なぜか(=違法状態)水源開発費を水資源機構に直払いしている岐阜県河川課県は、普通の河川改修に回せるお金はピーク時(H10年度)の5分の1(!!!)という有様です。
他方、徳山ダム以外に、実に毎秒5.488m3もの開発都市用水が「未利用」で放置されています。
この状態で、さらに「岐阜県の事業効果」のさっぱり分からない徳山ダム導水路の直轄負担金を負担しよう、というのはまさに「正気の沙汰ではない」。
(繰り返しだが、岐阜県は、「国からの説明」に尾鰭をつけて、なおも「無い袖」を振ろうとしている)
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さて、岐阜県は、やたらに「国からそういう説明を受けた」と強調します。
だから、「国(ここでは中部地整河川部)」に言いに行きました・・・「基にする数値が変わったなら、それを教えて下さい。<水源と供給先>の表の新しいものを作って下さい」と。
そしたら「近藤さんだけに特別な計らいはできません」、とのお答え。
「はぁ? 私『だけ』に『特別』に教えて下さい、などとは言っていません。この導水路問題では賛否両方の議論がある以上、基にする数値が変わったなら、それをきちんと整理して公表するのが当たり前、そうでないと話がクチャクチャになってしまって良くないでしょう?」
「公表する予定はありません」
(口の中でモゴモゴ言っていたのではっきりしないけど、愛知県の分も変えようと「調整中」だから公表できない、というようなことも言っていた。「形成途上の情報はヒミツにする」のがお役人の常識なのだろう。しかし私は、ここ十数年、ずっと国交省河川局-中部地整河川部から、「(決定事項の形成過程も含めて)透明性・公開性を高めます」とのタテマエを聞かされ続けてきた。まさに二枚舌、三枚舌のクチだ・・・・)
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繰り返します。
木曽川水系連絡導水路(徳山ダム導水路)事業は、現在凍結となっています。継続する(進める)のか中止にするのか、議論しなければならないときです。
しかし、「国」は、根拠資料の(変化の)公表・説明も拒否しています。
木曽川水系における<水源と供給先>の問題は決して些細な(無視できる)問題ではありません。「水は余っているのか不足しているのか」「渇水対策はどうあるべきか」の根幹に関わる問題です。
それを「公表する予定はありません」と言いはなってしまう神経には呆れかえる他はありません。
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国交省中部地方整備局「用語集」より
● 水利権(すいりけん)
水を使用する権利。歴史的、社会的に発生した権利であり、現在では、河川法第23条で河川の流水の占用権を国土交通省令によって認められたものを許可水利権といいます。また、それ以前において認められていたものは慣行水利権といいます。用水権、水利使用権、流水使用権、流水占用権ともいいます。
● 不特定容量(ふとくていようりょう)
ダム計画で、渇水時などで下流の計画基準点での自然流量が正常流量に達していない時に、不足する相当量をダムから放流して補うためにダム貯水池に貯めておく量のことである。
● 統合運用(とうごううんよう)
複数のダムの容量を一括管理して、容量に余裕のあるダムから優先的に使うことでより効率の良い補給を行うことです。
~ この稿終わり ~
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厳しい環境(草茫々の中)にもめげず、昨年から生き延びて咲いた菊