徳山ダム導水路事業(正式)中止を河川政策の転換への一歩に |
12月13日付の中日新聞朝刊は、1面トップで以下のように報じた。
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木曽川導水路の凍結継続 国交省、来年度「再検証」確実にhttp://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2009121302000138.html
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国土交通省は、本年度に予定していた本体工事を取りやめた「木曽川水系連絡導水路事業」を、来年度も凍結する方針を固めた。同省は来年度予算編成で、国が主体で建設する48のダムについて、進める事業と建設の是非をあらためて検証するものを選別するが、導水路事業が「再検証組」に入ることが確実な情勢となった。有識者会議が来年夏ごろにまとめる評価基準に沿い、遅くとも再来年夏までに政治主導で事業継続の可否が決まる運びだ。

導水路は、水資源機構が実施主体として、徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を木曽川に流すための施設。鳩山政権発足直後の10月、前原誠司国交相が「本年度の本体工事などを凍結する」と判断した6事業の一つだった。
政府関係者によると、木曽川導水路など6事業をはじめ、来年度に少なくとも本体工事着工が予定されている各地の事業が「再検証組」にリストアップされる見込み。再検証される事業は有識者会議の俎上(そじょう)にのる。この狙いについて、別の政府関係者は「拙速に事を運ぶのではなく、時間をかけて新たな治水の在り方を生み出すことが重要だ」と話している。

国交相は、国と機構が実施している56事業のうち、既存施設の機能を向上させるための整備を行う8事業を除く、48事業を見直しの対象としている。一方、道府県が主体となって進める87のダム事業について、国交相は「各道府県知事の判断を尊重する」との立場を強調している。
木曽川導水路事業については、名古屋市の河村たかし市長が「水余り」などを理由に事業からの撤退を表明。東海3県の知事が懸念を示しており、神田真秋愛知県知事や古田肇岐阜県知事がそれぞれ、国交相に早期整備を要望していた。
【木曽川水系連絡導水路事業】揖斐川と木曽川を直径4メートル、全長43キロの地下トンネルで結び、徳山ダムの水を毎秒4トン、渇水時は同20トンを木曽川に放流する計画。都市用水への利用、渇水時の木曽、長良両河川の環境改善などを目的に上流、下流の2ルートを建設する。当初計画では、2009年度に着工し、完成は15年度。総事業費890億円は国と愛知、岐阜、三重の各県と名古屋市が負担する。
◆評価基準なく政治判断先送り
<解説>鳩山政権は「コンクリートから人へ」を大きな理念に、政治主導でダム事業を見直す方針を打ち出した。だが、本年度は凍結とした木曽川水系連絡導水路事業について、来年度も「立ち止まった」ままにせざるを得ないのは、政治判断の根拠となる事業推進可否の評価基準がないためだ。
前原誠司国土交通相が「ダムに頼らない治水を議論する場」と言う有識者会議は3日に初会合を開いたばかり。国交省内でも、事業の今後を検証するために科学データを集めた形跡はない。
こうした状況で、どのダムを再検証とし、どのダムを継続させるのか。国交相ら政務三役は年末までに選別するというが、民主党のある国会議員は「政治主導は名ばかりで、判断は有識者会議に丸投げ、すべて先送りの状態だ」と明かす。
民主党マニフェストで「中止」とした八ツ場ダム(群馬県)について、政府と地元推進派が合意する見通しは立っていない。木曽川導水路事業でも、名古屋市長を除く周辺の多くの首長は推進派。地元の民主党の地方議員の間では「結論を急がず、このまま凍結で」との本音も漏れる。
国交相は川辺川ダム(熊本県)を中止のモデルケースにしたい意向だ。だが、「来年の通常国会に、中止に伴う生活再建の補償法案を提案するのは難しい」と明言するように、事業の中止決定と、それに伴う措置を打ち出せるまでの道のりは長い。
まずは「立ち止まった」。その後、いかなる政治判断で事業の可否を決め、大規模な公共事業の将来の姿を示すことができるのか。国民が政権交代の実を手にするのはまだ先のことになりそうだ。 (社会部・木村靖)
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10月9日の前原大臣の「一声」があった後も、(国直轄&水資源機構の48事業の中で)予算執行が本当に止まったのは6事業だけ。そのうちの一つが徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業であった。
今、建設計画があるダム事業で「洪水防御のためには、ダムを作る以外の方法はない」というのは存在しそうもないと考えている(「ダムによる洪水防御」は、大きな弊害が伴う割に、不確実で不安定で、「安心」とは縁遠い)。
が、長い間、「ダムで洪水対策をやるのだ、他の方法はない」と説明され続け、かつ堤防等の他の施策をほったらかしにされ続けた河川の沿川住民の中には、いきなり「ダム中止」と言われれば、不安に駆られる人もいるだろう。移転を余儀なくされた水没地住民にしてみれば「あんなに悩んで移転補償に応じたのは一体何だったのか」となかなか腹に落ちない人もいるだろう。
建設中のダム事業を中止するには、丁寧な説明が必要だ、という論は肯ける。
(公開すると闊達に意見交換ができない、などというレベルの「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」が、流域住民が納得できる基準を作れるかどうか甚だ疑問である。公開性・透明性なくして、「説明責任」は果たせないであろうに)
しかし、この徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業は、洪水対策とは何の関係もない。「命の危険」をネタに脅しをかけるようなものでもない。「最も中止しやすい事業」である。これを正式中止にできないのであれば、他のダム事業は全て「やるしかない」話になりかねない。
当会として以下の声明を出した。 PDFファイル版
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徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業「凍結」続行
木曽川水系の河川政策を根本的に検証し、中止への道を確実に
報道によると、現在予算執行が「凍結」されている徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業は、来年度も凍結を続行し、「再検証・見直し」作業に入る方向、とのことである。「一度決めたら止まらない」公共事業が、中止に向かって動き出したこと(まだほんの半歩ではあるが)を歓迎する。
(中略)
木曽川水系における過去の河川政策、特に長良川河口堰建設、徳山ダム建設は、明らかに誤りであった。今般、徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業を再検証するにあたって、これまでの事業の再検証と再評価を真摯に行うことを求めたい。 導水路事業の正式中止に至る過程(透明性・公開性を担保したものであるべき)全体が、日本の河川政策の良い方向へと転換していくものとなることを、心から期待する。
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晩秋(初冬)の落ち葉・・・家の裏
