徳山ダムの揖斐川への悪影響 |
岐阜新聞の連載企画「ぎふ海流」第3章は「断ち切られた川」。
2月19日と21日は徳山ダムに触れられている。
21日掲載分の記事を読むと、「いかなる場合でも万石20m3/秒の流量を確保すること」という岐阜県の要望(徳山ダム完成前に、岐阜県は国に対して何度か「いかなる場合でも万石20m3/秒の流量を確保すること」を強く要望している)が、岐阜県の漁業者にとって裏目に出ていることがみてとれる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぎふ海流 第3章 断ち切られた川
2010年 2月21日(日)
徳山ダム 川の変化 /水温低下「鮎が小型化」http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_4.shtml
揖斐川の水温を計り、徳山ダムによる川の変化を実感する石原潤一郎組合長=揖斐郡揖斐川町、岡島橋上流
「徳山ダムの運用以来、揖斐川上流の水が冷たくなった。鮎が小型化しており、悪い影響が出ている」
揖斐郡揖斐川町の揖斐川中部漁業協同組合の石原潤一郎組合長(54)は、同町の徳山ダム運用後の川の変化に危機感を募らせる。同町上野の中部電力西平発電所付近で計測した水温データを見ると、同ダム運用以前は夏場に25度近くあった水温が運用以来、20度を超えた日がほぼない。
鮎の成育には水温や餌となる藻の状態、川の流れ、前年の子鮎の放流量などが関係しており、水温低下だけでは因果関係を論じられないが、揖斐川上流の鮎に変化が生じたのは事実だ。原因究明に向けて石原組合長は近く水資源機構との協議を始める。
揖斐川上流で水温が下がった理由は、徳山ダムの放流と上流域の地形が要因とみられる。同ダムは平常時、同川下流の大垣市万石地点で河川流量を毎秒20トン確保するよう放流量を調節している。揖斐川町の岡島橋上流で西濃用水が農業用水として毎秒20トン取水するので、同ダムから同橋上流区間は夏場の多い時で毎秒40トン弱の水が流れ、川幅が狭い同区間は水位が上がり水温が上がらなくなった。
河川流量を可能な範囲で自然に近い状態にしようと、水資源機構は2008(平成20)年8月から上下流の漁協を対象に「徳山ダム弾力的な運用検討会」を開催。鮎漁をする上流域の漁協は放流量の抑制を求め、ノリや貝を養殖する河口近くの漁協は放流量の増加を求めて対立が続いている。
調整が難航しているのは、専業組合員が多い三重県内漁協の方が、兼業が多い揖斐川中部漁協よりも発言力が強い傾向にあるのも一因。放流量の抑制を実現させるには、下流域の漁協を納得させる根拠を示す必要がある。石原組合長は「時間はかかるが疑問を一つずつ消していけば、おのずと放流量の制限に行き着くはずだ」と確信を持っている。
(ぎふ海流取材班)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2008年4月末、本格運用開始を急いだ水資源機構は(指示したのは国交省)、試験放流として冷たい雪解け水を200m3/S、10日間くらい流し続けた。丁度アユの遡上の時期である。河口に辿り着いたアユはその冷たさにビックリしたことだろう。漁業に大きな影響が出た。漁業者の要求で設置されたのが(一般市民には全く知らされず)「徳山ダム弾力的な運用検討会」である。
(この検討会の設置に先立って行われた第1回徳山ダムの弾力的な運用を考える意見交換会(H20.3.25)は、それとしての会議報告もウェブサイトには載っていない。H20.8.27「 第1回徳山ダムの弾力的な運用検討会」の中で報告されたようだが)。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「徳山ダム弾力的な運用検討会」
水資源機構中部支社&国交省中部地整による発表資料
(徳山ダム「おしらせ」コーナーにバラバラに載っている)
http://homepage3.nifty.com/waterchubu/sub1/sub1.html
H20.8.27 第1回徳山ダムの弾力的な運用検討会
http://homepage3.nifty.com/waterchubu/sub1/sub20.html
H21.2.24 第2回徳山ダムの弾力的な運用検討会
http://homepage3.nifty.com/waterchubu/sub1/sub21.html
H21.3.24 第2回徳山ダムの弾力的な運用を考える意見交換会
http://www.water.go.jp/chubu/chubu//dai2danryokukangaeru.html
H21.7.17 第3回徳山ダムの弾力的な運用検討会
http://homepage3.nifty.com/waterchubu/sub1/sub22.html
・・・・・・・・・・・・・・・・・
簡単にいえば「流水の正常な機能の維持」として、一定水量を流し続けることは河川環境改善にはならない-むしろ生き物の生息環境を悪化させる-という、指摘され続けてきたこと(ダム事業者は耳を貸さなかったが)が実証されてしまっている、ということである。
徳山ダムについていえば、「いかなる場合でも万石20m3/秒の流量を確保すること」を固守したために、あの巨大な徳山ダムの貯水率が30%台になってしまっている、ということもある。
導水路は存在しない(=開発された都市用水は一滴も使っていない)のに「渇水対策容量」に手をつけねばならなくなっている。
blog 徳山ダム渇水対策容量がお役立ち?(09.12.17)
http://tokuyamad.exblog.jp/12503901/
水需要が全くないから「何とかなっている」状態なのだ
もし利水者が「金を払って確保したからには何としてでも使わなければ」と、頑張って専用施設(導水路など。岐阜県の場合なら取水・浄水施設も)作って「需要予測(いつまでも需要は伸び、かつ負荷率は低く、利用量率も悪化する、という架空予測)」通り水を使ったら空っぽになってしまう。「異常渇水時に緊急水を補給する」という話が成り立たない。
ダム建設の目的を二転三転させ「作ることそのもの」を自己目的化した結果、あらゆる意味で辻褄が合わなくなってしまった徳山ダム。
同じ過ちを犯さぬためにこの愚はきちんと検証されねばならない。
以下、「ぎふ海流 第3章 断ち切られた川」 の19日の分
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2010年 2月19日(金)
山国・岐阜のダム /薄れる意義、検証されず
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_3.shtml
多くのダム建設を受け入れてきた岐阜県。揖斐郡揖斐川町には日本最大の貯水量を持つ徳山ダムがある=同町、徳山ダム(昨年11月)
谷が多くて水が豊富な県内には計96基のダム(建設中を含む)があり、保有数は全国9位の多さ。なぜなのか。
ダム建設は、戦前は主に発電を、高度経済成長期は発電と利水を目的とし、岐阜県はものづくりが盛んな愛知県や名古屋市の水がめとして繁栄を下支えしてきた。
その後は、技術革新と人口の伸び悩みで水余りとなり、治水や渇水対策がダム建設の目的に加わったが、多くが建設の是非は検証されないままだ。道路や橋の整備促進、雇用の確保などの恩恵を得るために、山間地が検証から目を背けてきた側面も否めない。
ダム建設は地域を豊かにするのか。加茂郡八百津町の丸山ダム(1955年完成)や、旧大野郡荘川村の集落を水没させた御母衣ダム(61年完成)では、移転に伴い当該地域が消滅。高山市高根町の高根第二ダム(68年完成)の建設では、中心市街地や優良農地を水没させた結果、地域全体が活力を失ったともいえる。
国内最大の貯水量を持ち、2008年5月に運用を始めた揖斐郡揖斐川町の徳山ダムは、今のところ新規利水計画のめどは立っていないが、建設負担金約534億円が県財政にのしかかる。
徳山ダム建設と、同ダムの水を長良川と木曽川に流す木曽川水系連絡導水路事業は当初、愛知県や名古屋市への供給を目的とする一体の事業だったが、水余りの昭和50年代以降は意義が薄れた。
徳山ダム完成後、水資源機構は「導水路事業は渇水対策や流量確保、環境保全になる」と意義を強調していたが、昨年5月に名古屋市が導水路事業からの撤退意思を表明したのを皮切りに、政権交代を経て、昨年12月には国が事業凍結の継続を決定した。
岐阜大学地域科学部の富樫幸一教授(53)=地理学=は「本当に地域のためを思えば、30年前にすべてのダム建設計画を見直すべきだった」と地域の自立について語る。
(ぎふ海流取材班)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・