続 長良川河口堰はやっぱり「大問題」 |
岐阜新聞連載「ぎふ海流」
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/
第3章 「断ち切られた川」
長良川河口堰問題の続き:
- - - - - - - - - - - -
◇ 2010年 2月24日(水)
ヘドロとシジミ /堰下流の河床に「変化」
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_7.shtml

【写真】長良川の河川環境に変化をもたらした長良川河口堰=三重県桑名市長島町
三重県桑名市長島町の長良川河口堰(ぜき)によって、堰下流の自然が変化したと指摘する研究者は少なくない。岐阜大学地域科学部の粕谷志郎教授(61)は「ヘドロが積み重なり、生物がすめない死の世界」と河床の様子を語る。
粕谷教授は、河口堰建設前から海水と淡水が混ざり合う汽水域の分断が河川環境に与える影響を予測。ヘドロのたい積とヤマトシジミの死滅、ヨシ原の衰退、回遊魚(鮎、サツキマス)の減少などが進んでいるとする調査結果を指し示す。
粕谷教授によると、河口堰によって堰下流の水は表層の淡水と海水に分離され、河床では酸素が供給されない貧酸素状態が発生。潮の干満によって河口部から運ばれた有機物は、堰で止められて細かい土とともに河床に沈殿するが、酸素がないため分解されず、ヘドロとなって積もり続けているという。
これに対し、長良川河口堰管理所の河合佳之総務課長は、ヘドロとは言わず「有機物を含む細かい土やシルト、粘土は著しくはたまっていない。河口堰下流ではヤマトシジミが生息している」と説明する。粕谷教授が毎年実施している調査では、ヤマトシジミの生息は堰下流の浅瀬の一部で確認されたのみで、両者の言い分は食い違っている。
ヘドロのたい積などを調査している岐阜大学の山内克典名誉教授(68)=動物生態学=は、国土交通省の河川横断測量のデータを基に、1994(平成6)年から2001年までの河口堰下流200~1600メートル区間のヘドロのたい積量を試算。山内名誉教授によると、たい積量は東京ドーム1杯分弱の約102万立方メートルに上るとし、ヘドロは今も増えていると推測する。
長良川再生の方策として粕谷教授は「河口堰を試験開放して、堰と川との変化の因果関係を明らかにしたい。水資源機構と事実を共有することが再生の糸口だ」と積年の思いを語る。(ぎふ海流取材班)
◇ 2010年 2月26日(金)
河口堰周辺のヨシ原/「水辺の楽園」9割消滅
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_8.shtml

【写真】長良川河口堰の運用以降、減少しているヨシ原=三重県桑名市長島町、同河口堰上流
「ヨシ原が激減し、長良川の水質浄化機能が低下した。有機物がヘドロとなって積もり、伊勢湾まで汚している可能性もある」
岐阜大学の山内克典名誉教授は、三重県桑名市長島町の長良川河口堰(ぜき)周辺のヨシ原の減少と環境変化を指摘する。ヨシ原は水質浄化の場となるだけでなく、網目のように張り巡らされた根元では貝やカニが生息、それらを狙う鳥も集まる水辺の楽園だった。
ヨシ原の減少について山内名誉教授の調査では、長良川河口堰上流の伊勢大橋から海津市南端の長良川大橋間にはかつて42・5ヘクタールのヨシ原があったが、河口堰運用から7年後の2002(平成14)年には3・8ヘクタールと約90%も減少。年間で窒素約10トン、リン約1トンが浄化されなくなったと試算する。
一方、長良川河口堰管理所の丹羽賢一環境課長はヨシ原の減少を認めており、「河口堰の運用に伴う水位の安定がヨシを枯れさせたのもあるが、高度経済成長期の地下水のくみ上げによる地盤沈下が主な要因と考える」と説明する。対策として国土交通省と水資源機構は、河口堰上流に植栽地を造成して回復に努めている。
山内名誉教授は、浄化されない有機物について、堰下流の河床にたい積してヘドロとなるほか、富栄養化した水が伊勢湾に注ぎ込み赤潮を発生させると主張。だが、丹羽環境課長は「水質を定期的に観測しているが、悪化は確認していない。夏場にプランクトンの発生もあるが一時的で伊勢湾への影響はない」と説明。両者の見解の違いは平行線のままだ。
今、河口堰周辺の水辺では、枯れたヨシ原にセイタカアワダチソウやヤナギなどが繁茂し、樹林化が進む場所もあって治水上も好ましい状態ではない。山内名誉教授は「ヨシ原の減少と樹林化の進行は今も起きていることだ。長良川の分断を解消すれば、どちらの言い分が正しいか分かるはず」と話している。(ぎふ海流取材班)
- - - - - - - - - - - -
2008年春に(長良川市民学習会が本格稼働しはじめた頃に)山内克典先生が作られた詩。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ヤマトシジミからのメッセージ
(山内克典 岐阜大名誉教授)
◆ 長良川河口堰を作り
私たちを死に追いやった人たちが
今度は私たちを助けるという名目で
導水路を建設しようとしているとは・・・
心底、不条理の極みだと思います。
◆ 私たちのことを真に思うなら
河口堰のゲートを開けて下さい。
そうすれば私たちは長良川で直ちに復活します。
◆ 河川環境の改善というなら
河口堰のゲートを開けて下さい。
ヨシ原も、トビハゼも、ベンケイガニも、イトメも多くの仲間が復活します。
アユもサツキマスも昔の元気を取り戻します。
感潮域・汽水域の生態系が見事に復活します。
◆ これ以上長良川を苛めないで下さい。
徳山ダムの水を長良川に流すのはやめて下さい。
多くの仲間が元気に暮らす昔の長良川に戻して下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
読売新聞もCOP10企画でアユと川について載せている。
名指しはしていないけど「長良川河口堰は問題」と述べているようなものだ、と私は思うのだけど?
いのちの環 生物多様性COP10 2010年2月25日掲載
http://chubu.yomiuri.co.jp/tokushu/cop10/
(中)湖産アユ放流の功罪 ――いのちの環 生物多様性COP10
「天然モノ」減少 一因か
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_top/100225_1.htm
長良川中流にある岐阜県美濃市の同県魚苗センター。約90平方メートルの飼育池をのぞき込みながら、職員が体長5センチ前後のアユの稚魚を目の粗い網ですくい、大きさに応じて選別している。
「成長に差があって、体長が違うと共食いを起こしかねないんです」。事務局長の舩木(ふなき)和茂さん(54)らが手間を惜しまず育てている稚魚は、木曽川のアユの卵から孵化(ふか)させた。
漁業関係者は、川と海を行き来する天然アユを「海産アユ」と呼ぶ。センターがこだわって育てているのも海産アユだ。一方、一生を琵琶湖や周辺の川で過ごすものは、「湖産アユ」と呼ばれている。
アユは毎年、各地の川で大量に放流される。成長が早く、友釣りに適した性質を持つ湖産アユを選ぶ漁協は少なくない。ただ、その放流が海産アユの減少につながりかねないことが、最近の研究で明らかになった。
◎
1998年から2004年にかけて、大竹二雄(つぐお)・東大教授(海洋生物学)らは伊勢湾で越冬する稚アユや、三重県の宮川を遡上(そじょう)するアユの遺伝子を調べた。湖産アユの遺伝子はほとんど見つからず、湖産アユから生まれた稚アユは、海へ下った時点でほとんどが死滅している可能性の高いことを突き止めた。
大竹教授は「海産と湖産の間に生まれた交雑魚もいるはずだが、それも湖産と同じ運命をたどっている可能性がある」と指摘する。湖産の放流は、両親とも海産の稚アユが生まれる機会を奪っていることにもなる。
◎
水産庁の統計によると、全国のアユ漁獲量は、06年以降3000トン程度で推移している。同庁の担当者は「統計の取り方を変更したため、それ以前とは比較できないが、長期的には減少傾向にある」という。
河川改修で産卵に適した場所が少なくなったり、せきで遡上が妨げられたりしているのが原因と考えられ、漁業関係者からは「将来、アユ漁が成り立たなくなる」と危ぶむ声が上がっている。
アユの生態に詳しい「たかはし河川生物調査事務所」代表の高橋勇夫さん(52)も、アユの未来に危機感を抱いている。「川で生まれたアユが海で冬を過ごし、また川を上ってこられる営みを守ることが大切。それが流域全体の保全につながる」と、海産アユが遡上、生息しやすい河川環境の重要性を訴える。
生物多様性条約は目標の一つに、「生物多様性を構成する要素(生物)の持続可能な利用」を掲げる。生きものから継続的に恩恵を受けられる自然環境を守ることを意味する。アユと人間の関係は、その典型だ。
岐阜県魚苗センターの稚アユは4月から出荷され、県内の川に放流される。「湖産にも利点はあるが、人間に都合がいいことと、自然にいいことは別のはず。自然のバランスを乱すべきではない」。舩木さんは力を込めた。
<アユ>
サケの仲間で、成魚は体長20~30センチ。秋に川で産卵して一生を終える年魚。稚魚は川を下って海の浅瀬などで越冬、春に川をさかのぼる。独特の香りがあり、香魚ともいう。成長すると縄張りを作り、体当たりで侵入者を追い出す習性がある。おとりのアユを泳がせて釣る友釣りが一般的。
(2010年2月25日 読売新聞)