続・続 長良川河口堰はやっぱり「大問題」 |
新聞の連載記事の転載の続き。
岐阜新聞連載「ぎふ海流」
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/
第3章 「断ち切られた川」
◇ 2010年 2月28日(土)
小型化する鮎 /河口堰で回遊に異変も
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_9.shtml

【写真】鮎の受精卵のふ化・放流作業に取り組む漁協関係者と水資源機構職員ら=三重県桑名市長島町、長良川河口堰
三重県桑名市長島町の長良川河口堰(ぜき)の1995(平成7)年からの運用開始以来、鮎とサツキマスの漁獲量は年によって増減はあるものの減少傾向が続いてきた。
県水産課によると、河口堰運用以降、長良川水系の鮎の漁獲量は96年が約404トンで、2005年は約181トンまで減ったが、07、08年は約320トンと持ち直した。同様にサツキマスも96年は約11トンだったが、05年には約0・7トンまで減り、08年は約1・5トンとなった。
鮎の漁獲量が持ち直しているのは、長良川漁業対策協議会による受精卵のふ化・放流数の増加が要因だ。ふ化・放流数は05~07年は約500万粒だったが、08年は約3千万粒、09年は約6千万粒と大幅に増加。これに伴い、遡上(そじょう)数と漁獲量は増えたが、鮎は小型化した。
モニターで目視調査を続ける長良川河口堰管理所の河合佳之総務課長は「遡上数は増えている。原因は定かではないが小型化もしている」と話すが、生態写真家の新村安雄さん(岐阜市世保)は「鮎の小型化は河口堰の運用直後から始まっていた。ここ2年で顕在化したため騒いでいる」と指摘する。
新村さんによると、春に遡上する鮎は豊富な餌で体が大きくなるが、産卵も降海の時期も早いので、子鮎は高い水温と河口堰による流速の低下で川を下りきれずに死んでしまう。一方、晩秋に産卵する鮎は小型だが、水温が低いので子鮎は降海でき、徐々に小さな鮎が環境に適応していくこととなる。加えてここ2年は、大量のふ化・放流と溯上によって餌の奪い合いが起き、小型化に拍車が掛かったという。
岐阜大学地域科学部の向井貴彦准教授(38)は「大量の受精卵のふ化・放流は漁業者の苦肉の策だが、天然ものの鮎やサツキマスの実数が分からなくなり、種の遺伝的多様性が損なわれる。子鮎が海に下る時期だけでも河口堰を開けるべきだ」と解決策を示す。
(ぎふ海流取材班)
◇ 2010年 3月 1日(月)
川の再生、各地でうねり /求められる「劇的転換」
http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2010/gifu_kairyu/3/gifu_kairyu3_10.shtml

【写真】魚類の生態調査を通した長良川の変化を語る後藤宮子さん=関市下白金
県内の河川は、戦前までは舟運で山と海とを結び、戦時の食糧難には魚が流域の人々の命をつなぎ、戦後のダム開発では利水と発電が産業振興の礎となった。恩恵を一方的に受け取った結果、川の流れは断ち切られた。
関市の長良川と津保川で1967(昭和42)年から30年にわたり魚類の生態を調査してきた魚類研究者の後藤宮子さん(84)=同市下白金=は、魚を通して川の変化をつぶさに見てきた。
後藤さんは「経済成長期は工場や家庭からの雑排水が川を汚し、護岸や堰(せき)の建設が川の姿を変えた。公害が収まったと思ったら、長良川河口堰が運用を開始し、魚種も漁獲量も減った」と振り返る。郡上市美並町で郡上竿(さお)を作る福手福雄さん(75)は「川から鮎の香りが消えた」と川を見るたび嘆く。
ダムや河川改修が川や生物の多様性を壊したという反省から、政権交代を経て川の再生が各地で叫ばれている。群馬県の八ツ場ダムに象徴される国の公共事業見直しのうねりは県内各地にも及ぶ。
国は昨年12月、揖斐郡揖斐川町の徳山ダムの水を長良川と木曽川に流す木曽川水系連絡導水路事業の凍結継続を決め、新丸山ダム(加茂郡八百津町、可児郡御嵩町)を検証対象とした。さらに県が事業主体となる補助ダムでは、大島ダム(高山市)と内ケ谷ダム(郡上市)、水無瀬生活貯水池(加茂郡川辺町)の検証を県に求めている。
川の再生について、郡上市と岐阜市でサツキマスの産卵観察会を開く郡上市大和町の長良川水系・水を守る会事務局長亀崎敬介さん(41)は「ダム建設が一時的に見直され、川の環境や水質が改善しても、人の意識が変わらなければ意味がない」と語る。自然とのかかわりや暮らしの在り方が山・川・海の循環に違和感なく溶け込むような意識の劇的な転換(パラダイムシフト)が求められている。 (ぎふ海流取材班)
=第3章おわり=
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「劇的転換」が起きていくことを切望する(その「条件」づくりのために微力を尽くすつもり)。