長良川の不漁と漁民の河口堰開放要求 |

河口堰によって、長良川は痛めつけられ続けてきた。いったんは「補償」を呑んだはずの漁民からも「ここまで酷いとは・・・。こんなはずではなかった」という不満は多々耳にしてきた。
だが、上の記事には驚いた。「玉田和浩県議(自民党/県政自民クラブ)が会長を務める団体が!」という驚きである。梶原前知事の時代、そして自民党が国政与党であった時代、長良川河口堰はタブーであった。河口堰に公然と文句をつけることは「不逞の輩の行い」とされていた。時代は変わった、とうとう、漁民も公然と声を上げ始めた・・・しかし喜ぶべきこととばかりはいえない。背景には長良川の深刻な不漁があるからだ。
岐阜新聞紙面の上記の記事の上には下のような記事と写真とが載っている。
◆ 長良川、深刻な不漁
サツキマス「たったの64匹」/ 鮎遡上、例年の1割
天候不順や河口堰影響 羽島の漁師「最悪」
http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20100519/201005190902_10718.shtml

【写真】サツキマス漁をする大橋亮一さん(奥)、修さん兄弟。今年は例年にない不漁に見舞われている=羽島市内、長良川
長良川下流の羽島市で今月2日からサツキマス漁が始まったが、例年にない不漁が続いている。11日に解禁日を迎えた鮎漁も天候不順の影響などで漁獲量が低迷しており、川漁師からは嘆きの声が聞かれている。
羽島市の長良川でサツキマス漁をしているのは、同市小熊町の大橋亮一さん(75)と修さん(72)兄弟で、漁期は例年5月初旬から6月中旬まで。1995(平成7)年の長良川河口堰(ぜき)の運用以前は年間約1000匹捕れたが、河口堰運用後は漁獲量が減り続け、毎年400~150匹で推移、今年は18日までにわずか64匹しか捕れていない状況だ。亮一さんは「あと20日ほどの漁期で何匹捕れるのか…。過去最悪だ」と頭を抱えている。
また、今年の鮎漁は2~4月に天候不順が続いたため、長良川の鮎の遡上(そじょう)は例年の1割程度、岐阜市中央卸売市場への入荷量は例年の3分の1程度にとどまる。
鮎とサツキマスの不漁傾向は長良川水系全体で続いている。県水産課によると、河口堰運用前に年間1000トン前後あった同川水系の鮎の漁獲量は、ここ3年は約300トン台で推移、サツキマスは約20トンから約2トンにまで減った。
亮一さんは不漁の原因について「天候不順に加えて、河口堰の影響も大きい。川がせき止められて流速がなくなりサツキマスが網にかからないし、鮎の溯上も妨げられている。河口堰を春と秋だけでも上げてほしい」と訴えている。
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前々日、17日の中日新聞夕刊はサツキマスの不漁を伝えている。
◆木曽三川、サツキマス遡上遅れ 例年の1、2割
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010051702000211.html
5月に、伊勢湾から岐阜県の長良川など木曽三川を遡上(そじょう)するサツキマスが、今年は例年ほどの漁獲がまだ見られない。川をさかのぼる姿は初夏の訪れを告げる風物詩だが、漁業関係者の表情は曇りがちだ。
サケ科のサツキマスは川魚のアマゴが秋に降海して成長し、サツキが咲くこの時期に川を上る。岐阜市の卸売業者によると、例年はピークを迎える15日ごろに180匹程度が入荷するが、まだ3割ほどにとどまる。
長良川下流の漁師も「いつもの1~2割しか捕れない」と首をかしげる。一方、木曽三川では、アユの遡上が遅れている。業者は「サツキマスは時期的にアユを追うように上る。春先に寒い日が続き、遅れているのが原因では」と推測する。
長良川で毎年この時期に捕れたサツキマスを展示する岐阜県世界淡水魚園水族館「アクア・トトぎふ」(同県各務原市)では10日から9匹が加わった。30~40センチほどに育っており、職員は「成育は例年並み。遡上の遅れの理由は分からないが、水温などに左右されると思われ、最盛期はこれからなのでは」とみる。
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さらに、18日の中日新聞朝刊は、長良川河口堰の「振興費」との関係も伝えている。

◆ 長良川河口堰で振興費19年間/56億円投入 アユ戻らず
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010051802000027.html
長良川河口堰(ぜき)(三重県桑名市)建設に合わせ、岐阜県と国が実施したアユの魚道や人工ふ化施設整備などの水産振興対策事業費は、1990~2008年度の19年間で総額56億8000万円に上ったことが同県への取材で分かった。しかし長良川水系でのアユとサツキマスの漁獲高は90年当時と比べ激減している。
長良川流域の7漁協は90年3月、水資源開発公団(現水資源機構)と80億円の漁業補償協定を締結。同時に岐阜県も、7項目の水産振興対策に総額50億円以上かけるとの確認書を漁協側と交わした。
県と国、同公団は、アユの人工ふ化施設(桑名市)整備に10億円、人工授精の稚アユを生産する県魚苗センター関事業所(同県関市)建設に15億8000万円、魚礁の設置など102カ所の整備に30億5000万円をすでに投入した。7項目のうち残っているのは、アユと長良川をテーマにした建設予定の観光施設「あゆパーク」(同県郡上市)だけだ。
一方、河口堰運用前の90~92年に年間1000トン前後あった長良川水系のアユの漁獲高は、昨年までの過去3年間では同300トン台まで激減。サツキマスの漁獲高も、昨年は河口堰運用前に比べると10分の1の2・2トンまで落ち込んだ。
長良川漁協の大橋亮一組合長代理は「魚礁は最初は良かったが、今は泥が詰まって機能していない」と話す。
これに対し、岐阜県水産課は「ここ数年は天然アユの遡上(そじょう)が大幅に回復した。魚苗センターのアユも県内の放流量の半数をカバーしており、効果は出ている」と話している。
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放流によって数を確保すれば良い、という問題ではないことは前にも述べた。
河口堰の長良川全体への悪影響は、建設前から漁民・研究者・多くの市民から指摘されていた。巨額の公金を投入して建設した水源開発施設・長良川河口堰。水余りのこの地域ではどう考えても「無駄な公共事業」であり、環境破壊しかもたらしていない。
事実として示されているこの愚を、為政者はしっかりと直視すべきだ。
(この項続く)