寝た子を起こしてダム建設に拍車?~「ダム見直し」の怪~ |
岐阜県は海に面した部分がなく、一級河川しかない。
美濃地域の河川は伊勢湾から太平洋に、飛騨地域の河川は日本海に注ぐ。
幾つもの河川の中で、「岐阜県を代表する河川」といえば長良川である。岐阜県人口の約半分にあたる100万人が、長良川流域住民だそうだ。
長良川は本流にはダムがない・・・いえいえ河口に「河口堰」という名の有名でご立派なダムがある・・・。支流にはダムはないこともない。
そして「計画」としては存在し、そうはいっても金欠病の所為もあって宙に浮いていたような補助ダム・内ヶ谷ダム。
この内ヶ谷ダムが、今般の「有識者会議基準」での岐阜県の「見直し」の最優先になったとの報道に恐れ入った。
どうやら「寝た子を起こしてダム建設を急がせる」のが、「有識者会議・新基準によるダム事業検証」ということらしい。
★ 中日新聞岐阜県版2010年10月7日

★ 読売新聞岐阜版2010年10月7日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gifu/news/20101006-OYT8T01246.htm
建設再検証へ知事 「内ヶ谷ダム優先」
国と水資源機構が建設を進めるダムの再検証のため、国土交通相の私的諮問機関がまとめた新基準を受け、古田肇知事は6日の県議会一般質問で、「再検証対象となっている県内三つの補助ダムのうち、内ヶ谷ダムを優先して検討していきたい」と答弁した。
再検証対象とされた県内のダムは、直轄ダム事業が新丸山ダム(八百津町)と木曽川水系連絡導水路(揖斐川町~坂祝町)。補助ダム事業は、内ヶ谷ダム(郡上市)、大島ダム(高山市)、水無瀬生活貯水池(川辺町)。
県が優先してダム事業推進を検討していく内ヶ谷ダムは総事業費約340億円で工事進捗(しんちょく)率は68%。国の今年度予算で1億円が計上されている。
古田知事は「関係自治体との検討の場を設け、来年春頃までに県としての対処方針を決めて、国へ示したい」と述べた。大島ダム、水無瀬生活貯水池は、県の財政状況を見ながら適切な時期に検討していくという。
また、木曽川水系連絡導水路について、古田知事は「可茂、東濃地域の渇水対策に欠かせない事業。国に対し、2012年度予算に間に合うよう検証事業を進めるよう求めていきたい」と話した。
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内ヶ谷ダムについて、行政側の情報をいくらか集めた。
岐阜県トップ > 県土づくり > 道路・河川・砂防 > 河川 >
岐阜県河川課
http://www.pref.gifu.lg.jp/kendo/michi-kawa-sabo/kasen/
安心で安全な郷土づくり > ダム事業 > 内ヶ谷ダム
http://www.pref.gifu.lg.jp/kendo/michi-kawa-sabo/kasen/anshin/dam-jigyo/uchigatani.html
まず、岐阜県河川課の「内ヶ谷ダム」のページに、総貯水量・有効貯水量・集水面積などの基本情報が載っていないことに呆れた。
要するに「本当はやる気がない(お金がないからやれない)」だったのではないか?
それが「検証」することで一気に本体工事に進む、という事にもなりかねない勢いだ。
岐阜県トップ > 県土づくり > 道路・河川・砂防 > 河川 >
安心で安全な郷土づくり > 河川整備計画
http://www.pref.gifu.lg.jp/kendo/michi-kawa-sabo/kasen/anshin/seibi-keikaku.html
11 長良川(一級河川 長良川圏域河川整備計画)
http://www.pref.gifu.lg.jp/kendo/michi-kawa-sabo/kasen/anshin/seibi-keikaku.data/nagaragawa-honbun.pdf
↑
こちらのほうが詳しく載っている(p39~)
堤高=約82m、 堤長=約270m
総貯水容量=約1,150万m3、
有効貯水容量=約910万m3
洪水調節容量=約850万m3
「ダム地点の基本高水位流量(※)880m3/s のうち、690m3/s の洪水調節を行い、ダム下流沿岸の水害を防除する」
※ 1/100に相当。1/100は「2日間流域平均雨量 440mm」とのこと。
「長良川圏域河川整備計画」の目標としては、板取川合流点より上流側は1/10、下流側は1/20だそうだ。
「ダムは作り直しができないから、安全側を採って1/100とした」というのだろう。
が、たとえダムが役だつと仮定しても、下流部の堤防等はよくて1/20にしか対応していない。「危ない」。
この部分だけ取りだしても、「ダムなどないほうが危険が少ない」類のダメダム計画の一つである。
「ダム下流沿岸の水害を防除する」のであれば、例えば輪中堤で集落を囲む、とか、(もっと簡単に)堤防嵩上げで済むか、とか方策はいくらでもあるはずだ。
こういう施策のほうが、安価で、かつ「地元建設業者の仕事」になる。疲弊している地域経済の「活性化」にもつながることになるでのはないだろうか?
この内ヶ谷ダムについて、ときどき「長良川本流の水位低減効果」なるものを口にする輩がいるらしい(☆)。
が、この計画本文を見ている限り、その文言は出てこない。
☆ 「『内ヶ谷ダムには、長良川本流の水位低減効果がある』と言っている-誰が?-」というウワサは聴くが、出所が全く分からない。そういう行政文書も、それらしき根拠もないのだから、議論も反論もしようがない。こういうのが一番タチが悪い。
岐阜県河川課の「一級河川 長良川圏域河川整備計画」の担当者に訊いてみたが、シミュレーションはしていないという。
そうなると「ごく一般的にいって、上流でピークカットすれば、本川の水位低減にもなるはずだ」という話でしかないらしい。
ときどき、こういう「ごくごく一般論」が大手をふって「○○ダムさえできれば、水害は全部なくなる」という話に化ける、これが怖い。
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河川課から聴き取り
★ 工事用道路などは、おおかた出来ている。(一般の供用はしていない)
★ 全体計画(=直轄ダムでは「基本計画」にあたるもの)
H1.3.23 策定 建設大臣認可
総事業費 260億円
工期 H7年度完成
H18.5.9 変更 国土交通大臣認可
工期のみ、H31年度完成に変更
★ 電話でのやりとり
近藤=「H15年度の事業再評価委員会で、総事業費は約340億円としたそうですが、H18年の全体計画変更で、総事業費を変えなかったのはなせですか?」
河川課Ya= 「ダム本体の工法などによって事業費は変わるかもしれません。もう少し調査・検討し、ダム本体の工法等も、精度高く積算できるときに、あらためて全体計画変更して、総事業費を変える、ということになっています。」
近藤=「B/Cは、340億円を分母としてのものも算出したと思いますが、数値は?」
河川課Ya= 「1.1です」
近藤=「かなりきちきちの数字ですね。幸か不幸か、私自身は、B/Cがこんなにも1.0ギリギリのダムには、関わったことがありません、ハラハラドキドキものですね。永源寺第二ダムは、ギリギリでやっていたら、設計を見直さねばならない羽目になってダム計画は丸ごとオジャン。それまで投下した事業費は全部無駄になってしまった。そういうことは繰り返してほしくないですね。起債許可団体に転落している岐阜県にそんな余裕はないのだから。」
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「有識者会議/中間とりまとめ」を受けた河川局長通知(2010.9.28)はいろいろな方向で読める。「ダムに依存しない/ダム脱却」にも見えるが、「急いでダムを作れ」にも化け得る。
例えば「ダムを中止するなら代替案を」なる文言。
「代替案」を作る能力も(コンサルに委託するお金も)ない岐阜県だと、ひたすら前の資料で同じ「お題目」を唱えることになりかねない。こうなれば「内ヶ谷ダム建設こそがベスト」になてしまう。そしてこの内ヶ谷ダムには、5.5/10の補助金が約束されている・・・。
古田・岐阜県知事は「”見直し”の結果、ダムをつくるという結論になったら、『補助』は確実につくのでしょうね」と念押しをしたそうだ。(「『代替案』にも同じ率で『補助』はつくのでしょうね」という念押しもして欲しかったが、そういう思考回路には「なっていないらしい)
上記河川局長通知では、いろいろな『代替案』メニューを書いてみせたものの、『代替案』に補助金がつくのかどうか、曖昧にしたままだ。
独創的なものほど「補助金はつけられない。どうぞご自分でおやり下さい」になってしまう可能性は否定できない(兵庫県は、武庫川ダムをリストラした「武庫川水系河川整備計画」策定にあたり、総合治水の考え方であげたいくつかの事業について「県単独事業」となることを「覚悟した」ときく。「覚悟」しなければ、ダム計画はやめられないのか?)。
こんな調子であれば、貧乏県ほど「ダムなら補助金については安心して事業ができる、ダム案にしよう」「とにかくダム建設GOとして、来年度の補助金を目一杯とろう」という流れになりやすい。
徳山ダムで「ダム貧乏」県となった岐阜県は、貧乏だからさらなるダムを作る、というトンデモスパイラルに陥りそうな気配。
弊ブログ
岐阜県が起債許可団体に [2010-09-18
http://tokuyamad.exblog.jp/14618511/
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「ダムに依存しない治水対策」と称した有識者会議やらなんやらの一連の騒ぎは、いったい何なのだ?
この内ヶ谷ダムのように、計画だけはあって、実際にはあまり動いていないダム(店晒しダム)について、GOかSTOPかの決断を知事に迫ってしまっている。こんな迫られ方では「GO」の選択肢しかない … 「これまでの計画通り」とするほうが、知恵も金も要らず、ラクだから。
他県でも同様な話はいっぱいありそうだ。
いったいこの「ダム見直し」って何なんだ?!
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参考サイト
長良川水系・水を守る会
http://nagarariver.blog10.fc2.com/
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