ヤマトシジミと塩化物イオン濃度 -19,000mg/Lでもシジミはいるはず- |
木曽川水系連絡導水路(徳山ダム導水路)の総事業費の65.5%は「流水の正常な機能の維持」である。少しでも正常流量(この決め方の「科学性の無さ」に恐れ入る)に近づけるのが河川管理者の義務なのだそうな。( → この「科学性の無さ」は、山内克典・岐阜大名誉教授が指摘している通り。 ◆)
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① 木曽川大堰(木曽成戸)地点で50m3/sの維持流量が必要だ。
a.ヤマトシジミの生息を保全するため。
b.aのためには、塩化物イオン濃度が11,600mg/Lを上回ってはならない。
(塩化物イオン濃度が11,600mg/Lを上回わるとヤマトシジミは斃死する)
c.bのためには木曽川大堰で57m3/sの流量が必要だ。
② 平六渇水のような異常渇水時においても、木曽川水系連絡導水路による徳山ダムからの緊急水補給によって40m3/sの流量を確保する。
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①c を出した「根拠」らしきものが、下のグラフ。
木曽川水系流域委員会の関口秀夫委員(シジミの専門家としては委員会唯一)も「このグラフには全く科学的意味はない」と発言している。しかも、プロットしたデータが恣意的に抽出されたものである(山内名誉教授が指摘)。何事かの「根拠」にするにはちょっと恥ずかしい。
さらに、なぜ57m3/sが河川整備基本方針では50m3/sになるのか、なぜ異常渇水時にも導水路で確保すべきなのが40m3/sなのかも不明。
2009年夏の渇水では30m3/sで(木曽川上流ダムを)運用していたことも、さらに9月末には30m3/sを下回っていたことも明らかになっている(ダム等フォローアップ委員会/阿木川ダム)。そしてこの2009年渇水で、木曽川下流部の河川環境に大きなダメージがあったとはきいていない。
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あえて「塩化物イオン濃度が11,600mg/Lを上回わるとヤマトシジミは斃死する」という言い分を信じるとすると、「シジミはいるというけど実はいない」という摩訶不思議な話になる。
毎週水曜日に長良川河口堰管理所が発表している週報をみると、長良川河口堰下流左岸250mの塩化物イオン濃度はほとんど11,600mg/Lを上回っている。いや、下層に限っていえば、ほぼ常に15,000mg/Lを上回っている。
水資源機構中部支社長良川管理所
http://www.water.go.jp/chubu/nagara/index.html
少し旧いが2月16日発表分。
2月16日発表分 報道宛(水資源機構中部支社)
2月16日発表分2ページ下
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他方、 水資源機構長良川河口堰管理所資料によれば、長良川河口堰下流にも、ヤマトシジミが生息している。「河口から3km、4km」あたりらしい。つまり、「河口堰(河口から5.4km)下流250m」より塩化物イオン濃度は海水に近く高いはずだ。
長良川河口堰では、建設反対運動を受けて、高価な自動観測装置を設置している。これまでの全データが「機器の誤作動による誤った値」ということはないだろう。
それらのデータによれば「塩化物イオン濃度が11,600mg/Lを上回わるとヤマトシジミは斃死する」という仮説は、事実をもって否定されてしまう。
それとも、国交省中部地整及び水資源機構は「長良川河口堰下流にヤマトシジミがいる」という資料が間違っている、とでも言うのだろうか?
どうしてこういうちぐはぐなことが言えてしまうのだろう?
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→ ◆ 長良川市民学習会HP http://dousui.org/
資料保管庫(山内克典・岐阜大学名誉教授の資料)
http://dousui.org/dataroom/index.html
ア.08年3月23日
ヤマトシジミに導水路は必要か
http://dousui.org/dataroom/data/yamato.pdf
補足資料
http://dousui.org/dataroom/data/yamato_hosoku.pdf
イ.09年01月13日
木曽川感潮域の必要流量に関して国土交通省の必要流量設定上の問題点
http://dousui.org/dataroom/data/090113yamauchi.pdf
山内先生の意見を簡潔にまとめたのが、09年5月15日の公開質問状
中部地整河川部のHPに
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/090515shitsumon.pdf
国交省中部地整の「回答」は(まともに回答していないが)、最大限好意的に解釈しても「導水路による緊急水補給は絶対必要というわけでもない」としか読めない。
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/090807shitsumonkaitou.pdf
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異常渇水時に徳山ダムの水を長良川に補給する、というのも、結局は「河川環境にとって是非とも必要というわけでもない」としか聞こえない。
木曽川大堰で50m3/sとか40m3/sを確保する、というのもその程度の話。
なら、「自然環境への大打撃になる」と批判される何百億円も事業はやらないほうが良いに決まっている。
それでも「やる」というのは、結局のところ「徳山ダムができちゃった以上、使わないとモッタイナイ」という心情のようだ。
こんなモッタイナイ論で事業が進行するならば、確実に膨大なツケが次の世代に押しつけられる。どこかでこの手のモッタナイ論を止めない限り、負のスパイラルが続く。