「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」がオマヌケだから・・・ |
2010年9月末からの全国一斉の「ダム事業の検証」。
検証主体が事業主体、検討の場は関係地方公共団体、というのが、そもそも相当に馬鹿げた設定だ。
しかし、あちこちでこの再検証なるものが進むにつれて、この「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」の存在も、まともな検証を阻害していると思えてならない。
「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/dam_kentou/pdf/dam_kentou_saimoku.pdf
(以下「要領細目」という)
岐阜県知事が検討主体となっている内ヶ谷ダム。
2006年に策定された長良川圏域河川整備計画に位置づけられているとはいうものの、この河川整備計画を策定したときから、関係住民にまともに説明されていない(ましてまともな意見聴取は行われていない)。完成予定年を知ったのもつい最近(2027年だって!!)、そして未だに内ヶ谷の「効果」がきちんと説明されていない。
意見募集資料の「コスト」の話も不思議だらけ。
「検討を(国に)やらされている」岐阜県河川課にいろいろ訊くと、回答しようと努力してはくれる。だが何かというと「国の『要領細目』がそうなっています」「『要領細目』について問い合わせたらこうなっています(※)」となる。そして「要領細目」を仕切る国交省河川局河川計画課は、検証主体の事務方からの質問には答えるようだが、市民一般からの質問はネグレクトする。
この「要領細目」は「できるだけダムに頼らない治水」に政策転換したいのか、従来通りダムに依存したのか、分からない。読み方によっては「すでに河川整備計画でダムが位置づけられている(河道改修など諸々の計画も『ダムあり』で進めている)からダム案が最良」という結論に誘導するための「要領細目」ともいえる。
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「要領細目」
p4
第4 再評価の視点/1 再評価の視点/(2) 事業の進捗の見込みの視点、コスト縮減や代替案立案等の可能性の視点/①複数の治水対策案の立案
「検証対象ダムを含まない方法による治水対策案を立案する場合は、河川整備計画において想定している目標と同程度の目標を達成するために、当該ダムに代替する効果を有する方策の組み合わせの案を検討することを基本とする。」
P12
「効果を定量的に見込むことが可能か」
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明文にはないが、「ダム以外の代替案はすでにある河川整備計画の数値目標を定量的にクリアするべきだ」と読めてしまう。
その結果、内ヶ谷ダムの「洪水対策代替案」4案には、木曽川水系河川整備計画(直轄区間。2008年3月策定)に影響しないように、直轄区間の内ヶ谷見合い分の代替施設(この場合は遊水地)設置費用約206億円を上乗せしなければならない、という話になるらしい。
「・・・らしい」というのにはいくつかの意味がある。
そもそも「要領細目」がそういうことを指示しているのかどうかが不明、ということもある(「ダム以外の案は無理」という方向に誘導されるような表現である、ということにおいて「『できるだけダムに頼らない治水』に政策転換する検証のための『要領細目』としては落第、オマヌケ」と言わざるをえない)。
私が今強調したいのは、「『木曽川水系河川整備計画(直轄区間)』策定過程では、内ヶ谷ダムの効果なんて全く説明に出て来なかった」「聴いていない!」ということ。
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木曽川水系河川整備計画
http://www.cbr.mlit.go.jp/kisokaryu/kisosansen-plan/genan/seibikeikaku_honbun_4.pdf
2-6
河川整備計画において目標とする流量と河道整備流量
長良川(忠節) (平成16 年10 月洪水対応)
目標流量= 8,100m3/s、
洪水調節施設による洪水調節量=400m3/s、
河道の整備で対応する流量=7,700m3/s
3-7
② 遊水地等の整備
長良川において、戦後最大規模の洪水〔平成16年(2004)10月洪水〕を安全に流下させるため、板取川合流点から下流の区間において遊水機能を活かした洪水調節として基準地点忠節において戦後最大規模の洪水に対して約200m3/s の流量低減を見込む遊水地等を整備する。
なお、整備にあたっては、当該地域の開発状況と遊水地計画を総合的に検討し、地域の振興に資するよう開発プロジェクトと協調を図るなど岐阜県をはじめとする関係機関と十分な調整.連携を図るとともに、既往の洪水に対する当該地域の浸水対策を併せて検討する。
遊水地等の位置.諸元等の詳細については今後検討し決定していく。
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木曽川水系河川整備計画(直轄区間)策定の際には、木曽川水系流域委員会に傍聴にも行き、公聴会で意見も述べるにあたって公表資料には目を通した。長良川(基準地点 忠節)において「洪水調節施設による洪水調節量=400m3/s、うち遊水地等の整備=約200m3/s」といのは「整備計画(案)」にもあった。その当時も「400m3/s-200m3/s=200m3/sは、どういう洪水調節施設を念頭においているのか?」と訊いたが、「詳細については今後検討し決定していく」としか答えて貰っていない。
そして、岐阜県は「(直轄区間の)河川整備計画に内ヶ谷ダムの分が見込まれているから、仮に内ヶ谷ダムを作らないとなったら他に洪水調節施設を作らなければならない。その分が約206億円」というのである。
そういう話なら、木曽川水系河川整備計画(直轄区間)策定のときにきちんと説明するべきだろう、そのときには、長良川圏域河川整備計画(指定区間)は、国交大臣が認可していたのだから。
このときに「長良川支流の内ヶ谷ダム見合の分だ」と説明されていたら、長良川を心から愛する流域住民は黙っていなかったはずだ。
その後も何度か木曽川上流河川事務所、中部地整河川部に訊いたが、明確な回答はなかった。「遊水地等の他の約200m3/sは内ヶ谷見合い分だ」というのは、この4月になって岐阜県から聞き、木曽川上流河川事務所に確認したような有様である。
今になって「議論の対象になっていない木曽川水系河川整備計画(直轄区間)ののカット分は減らせない(与件だ)。その分を考慮するとダム以外の代替案の事業費は高くなる」などというのは、全くもって後出しジャンケン
透明性もない、説明責任は全く果たしていない。
この「検証」とは一体何のためにやっているのか?
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※ 馬鹿馬鹿しい例を一つ。
内ヶ谷ダムの「不特定身替りダム」。
「60万m3の有効貯水量に対して240万m3の堆砂容量を見込んで300万m3の身替りダムを作る」というアホらしい話に関する回答。
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〔回答〕
・国土交通省のダム検証関連サイトよると、「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」の補足として」について次の問いに対し回答がなされており、それに基づき作業を進めたものです。
(質問1) 検証に係る検討に当たって、現行計画における洪水調節と流水の正常な機能の維持のそれぞれの目的に対するコストの算出方法を示すべき。あわせて、その際のそれぞれの目的のダムにおける堆砂容量の設定の考え方を示すべき。
(回答)
1. 予断を持たずに検証を行うという基本的な方針に沿って、恣意的な検証を行っているとの誤解を避けるためにも、できるだけ客観的な根拠を有する手法を用いることが望ましいと考えています。
2. その観点から、洪水調節と流水の正常な機能の維持のそれぞれの目的別のコストについては、特定多目的ダム法第7条等に規定している「分離費用身替り妥当支出法」に沿って算出することが望ましいと考えています。
3. また、それぞれの目的の身替りダムにおける堆砂容量の設定に当たっては、各目的の身替りダムを多目的ダムを設置する場所と同じ場所に設置すること及び多目的ダムと同量の堆砂容量を設定することを原則とすることが望ましいと考えています。
4. なお、それら以外の手法を用いる際には、その手法を用いた理由を明示することが必要であると考えています。
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「多目的ダムと同量の堆砂容量を設定することを原則とすることが望ましい」と国交省河川計画課が宣っている、と。そうすると「60万m3の有効貯水量に対して240万m3の堆砂容量を設定する」ことが「客観的な根拠を有する手法」になる??? 元のダム計画に引っ張られる(そして有効貯水量の4倍の堆砂容量を設定するなんてことが起こる)のが、「予断を持たずに検証を行うという基本的な方針に沿」うことになる???
ちなみに「分離費用身替り妥当支出法」を使ったとして、「不特定身替りダム」では妥当投資額=身替り建設費となっていて事実上青天井。どんなに高くつくものであっても構わない、という考え方らしい。
「不特定目的単独ダム」などというありえないものを設定し、妥当投資額が存在しないから身替り建設費をあて、有効貯水量の4倍という堆砂容量を設定し・・・・そうして「不特定身替りダム建設費」が高額になることで、ダム残事業費の「洪水対策分」を小さくする、なんて姑息にすぎるのではないか?
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