郡上のオオサンショウウオ |
3月6日の中日新聞夕刊の1面トップに大きな記事が載りました。
『工事河床から天然記念物 オオサンショイウオ9匹
郡上・小那比川 復旧中断「ご理解を」』
郡上市八幡町の小那比川(おなびがわ/長良川支流津保川の支流)で、岐阜県が昨年8月の台風で壊れた箇所の復旧工事を行っていたところ、工事河床にオオサンショウウオとネコギギが居ること確認され、工事中断となっている、という記事です。


郡上を流れる長良川支流は、どの川も「清流」です。あちこちにオオサンショウウオの生息場所がある、と私も前から耳にしています。現地の環境NGOの方から、具体の河川名(支派川名)も聞いたことがあります。
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この記事が出たことで以下のようなことを聞きました。
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1) 小那比川のあの箇所では、実はオオサンショウウオは20匹いたのだが、9匹しか公表されなかった。
2) 残りは密猟者の胃袋におさまったはず。
3) 郡上の長良川の各支流には結構な数、オオサンショウウオが生息している
4) もちろん、内ヶ谷ダム予定地の亀尾島川(きびしまがわ)にもいる
5) 密漁者はどこにオオサンショウウオがいるかはよく知っている。(※)
6) 密漁者は現場で解体して「肉」にし、仲間内で食べてしまうので、外部にはなかなか漏れない
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「味は牛肉に似ていて、牛肉よりおいしい」そうです。
話の細部にリアリティがありましたし、3)4)5)については前から私も耳にしていたので、ガセネタとは思いません。(事情により「証言」として公表することはできない)
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このお話を聞いて、私は2つのことを思い出しました。
① カスミ網猟と東濃の「食文化」
② 徳山村のヘビダカ・ミツボシダカ 藤橋村村長
① 岐阜県東濃地方には、秋になると「焼き鳥」を食べる習慣がありました。渡り鳥として飛来するツグミなどを捕獲して食べるのです。
東濃出身の知人は「秋にはなくてはならない味だった」と言います。
一時期は、東濃地域だけでなく、この「焼き鳥」が大流行し、西濃地域でも商業的規模の(そのための山道がき切り開かれるほどの)大きな鳥屋場(とやば。カスミ網が張って渡り鳥を大量に捕獲する”施設”)が作られていました。
西濃の鳥屋場跡の調査のために、福井・滋賀県境のヤブ山-揖斐川の水源地域-を、随分歩きました。これは後に徳山ダム建設中止の運動に役立ちました。
種の保存が危惧されるほどの野鳥の大量捕獲。
そんなことがいつまでも許されるはずはありません。1991年に「カスミ網の捕獲目的所持、使用、販売が禁止」となりました。
しかし、その後も、以前に比べればずっと小規模ですが、密猟は続いています。
1990年代前半、密猟防止(追跡)や鳥屋場跡調査を行いながら、私は「個人レベルの密猟のモグラ叩きに終始してはならないな」と感じました。
渡り鳥(特にその中の希少種)の激減の主原因は、渡り鳥が繁殖する東南アジアの森林が奪われてきたこと(日本が悪い意味で積極的役割を果たしている)だと思います。そして根強い「食文化」感覚に対処するには、地道な「種の保存/生態系保全への理解」(それが自分たちのためになり、子や孫やさらに先の世代のためになる)を求めていくの必要があると感じました。
② 徳山の民話には、イヌワシやクマタカがさまざまな形で登場します。「身近な(同時に畏怖すべき)鳥」だったことを窺わせます。
1996年春から徳山村を頻繁に訪れることになりました。
本郷(徳山)地区になお住み続けるNさんは「毎日、ほぼ同じ場所でヘビダカ(クマタカ)が見られる」とおしゃっていました。残念ながら本郷(徳山)の集落跡の上空でクマタカを見ることはなかったのですが、下流、上流の集落跡上空では何度か目撃しました。
徳山の人にとって、クマタカは毎日のように見られる「身近な鳥」だったことが分かります。
西谷の奥(門入)と東谷の奥(冠山の麓と磯谷の奥)で、イヌワシを見ました。
2000年夏の門入での徳山村キャンプでは、イヌワシは幼鳥(ミツボシダカ)とその両親の三羽が大空を舞う、という珍しく貴重な光景を目にすることができました。
1996年3月、「徳山ダム建設事業審議委員会 第4回」に、「徳山ダム集水域には天然記念物イヌワシが居ます。大型猛禽類をきちんと調査して下さい」という要望書を出したのが「「徳山ダム建設中止を求める会」の公的(?)デビューでした。
以後、徳山ダム審で何度か「イヌワシ・クマタカ」が議題になりました。
そのとき、起業地自治体の長として委員になっていた藤橋村村長S氏は「クマタカや、イヌワシや、いうけどトンビと何が違うんや。そんなもん、いっくらでもおる。こんなもんが事業の邪魔になるなら鉄砲で追い払ってしまえ,、というのがウチの村の声だ」とおっしゃいました。
天然記念物でも、そこに暮らす人にとっては珍しくも何ともない。
「(貧しい山村にとって)貴重なメシのタネであるダム事業の邪魔になるなら、そんなもん、追い払ってしまえ」
都市部に住む「環境問題について意識の高い人々」は、本当にこれを嗤う資格があるのかどうか?
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オオサンショウウオを捕って食べる密猟者を「意識が低い愚か者」とあざ笑ったところで事態は少しも前進しません。取り締まりを強化し厳罰で臨んでも、あまり効果はないでしょう。
情報開示に対してオオサンショウウオのという種名を黒塗りで隠してみても無意味です(※)。密猟者は、岐阜県がもつ調査資料よりずっと詳しく知っているのですから。
希少種が絶滅が危惧されるようになっている主要な要因は、密猟ではない、生態系全体のバランスが崩れていることです。
流域住民全体で「希少種がいる貴重な生態系を保全していく」という意識が共有されれば、結果として密猟者への地元の監視の目が強化され、密猟は減るでしょう。住民の意識が生態系保全へと向かっていけば、その希少種に限らず、結局は「人」が生きていくのに良い環境が保たれていきます。
今年は「ぎふ清流国体」の年です(私の耳には「こんなにお金がないときに何をやっているのだ」という怨嗟の声しか入ってきませんが)。
「ぎふ清流」というのは、主に長良川(支流も含む)を指すのでしょう。
住民も岐阜県(当局)も一緒に「天然記念物オオサンショウウオが棲む郡上の清流を大切にする/長良川を大切にする」という活動ができるといいなぁ・・・・
※ この中日新聞夕刊が配布されているちょうど同時刻(6日15:30)に、岐阜県河川課が「内ヶ谷ダムに関する環境調査資料の公開について」という記者会見をしていたことになります。
両生類オオサンショウウオは相変わらず「種名も黒塗り」です。
内ヶ谷ダム環境調査資料開示への異議申立て→ほぼ通りました
http://tokuyamad.exblog.jp/17281216/
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