「撤退ルール」隠しはダメよ ~「導水路見直し」共同公約から2年~(1) |
2013年となった。
名古屋市では市議会選も同時でトリプル選挙となった愛知県知事選・名古屋市長選から2年を迎えようとしている。
大村知事・河村市長が挙げた「① 長良川河口堰開門調査 ②設楽ダム見直し ③木曽川水系連絡導水路見直し」のうち、①と②については、愛知県は検討チームを設置し、どういう程度にしろ”動き”がある。
しかし、木曽川水系連絡導水路については全く”動き”がない。(※)
客観的にいって、3つのうち一番たやすいのは導水路である。2003年に法令に位置づけられた「撤退ルール」に基づく「撤退」をすれば、今なら負担なしに事業から撤退できる。なぜそうしないのか。知らないのか、他に意味があるのか?
※ 2011年6月の「木曽川水系連絡導水路事業の関係地方公共団体からなる検討の場 第1回」で、愛知県は前知事時代の立場(=導水路事業推進)をとり、現在に至るまでそれは変更されていない。
検証対象ダム事業の関係地方公共団体からなる検討の場
http://www.water.go.jp/chubu/chubu/kensho/index.htm
対愛知県の木曽川水系連絡導水路公金支出差止訴訟で、被告・愛知県は「本件支出を行うことについては、知事及び企業庁長に裁量権はなく、法令に基づく支出義務を負っている」と繰り返し主張しているらしい。そこで原告側は新たな準備書面で「被告らが自らの行為によって支出義務を負わなくすること」、つまり「撤退ルール」について説明した。
1月23日の次回口頭弁論までに被告愛知県側から何らかの反応があるはずである。
◇ ◇
下の2枚は、国土交通省(本省)作成の「撤退ルール」に関する説明資料である。
特ダム法(特定多目的ダム法)、水資源機構法における利水者撤退の際の負担額に関する規定を、わかりやすく図で解説している。基本的に間違っていない(多少のミスがあるが、本質的ではない)。上出来の資料だと思う。


撤退者の負担額は
<不要支出額+”残った者”の投資可能限度額の超過分>
である。
導水路事業では
不要支出額は発生していない。
投資可能限度額は身替り建設費(多目的ダムが持つ機能をそれぞれ単独に作った場合に要する推定の費用)なので、「残った者」が仮に単独で事業継続するとしてもその負担額が投資可能限度額を超えることはない。
ゆえに、この導水路事業についていえば、利水者としての愛知県、名古屋市ともに、撤退負担金はゼロ円である。
ところが、どうもこの理が通じないようだ。
国交省のこの説明資料を「撤退させないための足抜け禁止ルール」とコメントした識者もいる。
いったん約束(同意)したものを抜けるからにはペナルティがあるに違いない、国交省は事業官庁だから足抜けさせないように法令を作っているに違いない、という思いこみ、ヘンな「常識」にとらわれているように思う。
筆者は、2003年7月にこの「撤退ルール」が作られた際、随分シツコク国交省の担当部署(河川局治水課&水政課、水資源部。いずれも「当時」)を”取材”した。「撤退者の負担を透明化するルール。結果的に撤退しやすくなるはず」というのはウソではないと思っている、
そうはいっても
(1)「撤退ルール」は、国交省サイドの恣意で、事実上封印されてはいないか、
(2) 2009年5月の河村「撤退したい」発言以後、水資源機構中部支社副支社長が何度も叫んだ「ただし書き」適用で事実上ルール無視のペナルティ的な負担が課されていないか、
気になって調べてみた。
国交省治水課事業監理室が昨年3月1日時点で作成した資料、
<利水参画予定者の撤退及び参画量の減少に伴う「特ダム法施行令第1条の2」及び「水資源機構法施行令第21条、第30条第2項」の適用事例>*
* PDFファイル
によれば11事例。
① 撤退者が「撤退」時点すでに支払った負担済額 と ② 撤退後の負担額 を比べて
① < ② つまり既支出額に追加負担があったのは11例・26利水参画予定者のうち2利水参画予定者だけ。それも「撤退」ではなく「減量」のケースであった。
◆ 幾春別川総合開発事業 北海道 ①=718百万円 ②=773百万円。
◆ 沖縄北西部河川総合開発事業 沖縄県 ①=67,005百万円 ②=70,722百万円。
24の利水参画予定者は国からお金を戻されている。
「ただし書き」適用は2例。いずれも ① > ② で「ただし書き」適用が撤退に対するペナルティとして使われてはいない。(うち1例、猪名川総合開発・余野川ダムの基本計画廃止の際の利水者・箕面市について少し詳しく聴いた。箕面市の「早い段階で撤退意思を伝えていた」という言い分を容れる方向で「ただし書き」が使われている)
「撤退ルール」は「撤退者の負担を透明化するルール。結果的に撤退しやすくなるはず」として一応は機能している。
(脱線呟き:11事例のうち2009年夏以前は7事例。以後の4事例はいずれも2011年。中部地整管内事業はゼロ、水資源機構事業は2011年2月の川上ダム(近畿地整管内)のみ、というところがミソだったりして?)
◇ ◇
しかし、これは「撤退ルール」の土俵に乗った事例である。
どうやら「撤退ルール」を説明しないことで、そもそも土俵に乗せない陰謀(?)が存在するようだ。
下は2009年7月10日の、「副副会議」(三県(愛知・岐阜・三重)一市副知事・副市長会議。メンバー=三県一市の副知事副市長+中部地方整備局長・河川部長+水資源機構中部支社長)の資料の一部である。
5月の河村たかし名古屋市長の「導水路、撤退したい」発言を受けて開催された会議である。

「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として計算」したとして「負担者未定 111億円」という試算を出している。
法令に「撤退ルール」が明確に規定されているのに、それを無視して、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として計算」するなんてアリかぁ????
法令に則れば「負担者未定」の金額など生じない。
こんな試算を出すことで、わざわざ「誤解」を誘発するなどは行政としてあるまじきことだ。
この資料の作成者は中部地整。
この時期、中部地整&水資源機構は、「撤退ルール」について三県一市に説明していない。
2012年3月12日付け中部地整局長名の行政文書開示決定通知書によれば、<名古屋市が「撤退」した場合の名古屋市及び「残った者」が負担する費用算出の説明文書>は不存在となっている。撤退ルール適用の場合の試算はしていない、というのだ。
中部地整河川部は「国・三県の新たな負担が生じないことを前提とした数字を出せ、と三県の側から言われたから出したまで。撤退させない、などという意図はない」と強弁するが、撤退ルールについては説明せず、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提とし」たという法令的にはありえない仮定(架空)の数字を示すことで、ミスリードしている。主観的意図がどこにあろうが、客観的には「名古屋市長の『撤退したい』発言封じ」の役割を果たしている。
さらに、この「負担者未定 111億円」は、副副会議の3週間ほど後の2009年8月2日の名古屋市公館での公開討論会で、名古屋市上下水道局の以下の資料に化ける。


ここで「負担者未定 111億円」はとうとう「撤退負担金」にされてしまっている。
こうなるともはや虚偽文書である。(「最大」とつけている、ゼロ~111億円までの幅をとった、「虚偽」ではない、というツッコミがありうるか?)
「副知事・副市長会議資料をもとに作成」としてあたかも国交省がオーソライズしたかのように見えるだけにタチが悪いともいえる。
構図としては
<中部地整と名古屋市上下水道局の役人による”変人”市長への騙しと恫喝>
そしてどうやら、河村市長は嵌ってしまったらしい・・・・・。
この当時、名古屋市民の実に7割が「導水路事業からの撤退」を支持した。
この虚偽資料は、単に”変人”市長を嵌めただけにとどまらず、名古屋市民全体に対する裏切りにならないか?
大問題だと思うのは、この手の虚偽や騙しを、資料を作成している実務担当者は自覚していないらしいことだ。
それぞれのお役人は、それぞれに真面目に一生懸命にやっている。それは確かだ。
「騙し」「虚偽」という言葉に対しては、多分「何を言うか!そんなつもりはない!」と烈火のごとく怒るだろうと感じる。
だが、悪意でなければ良いのか?
行政の従来からの作法に従ったまでで「そんなつもりはない」「悪意はない」・・・
「地獄への道は善意で敷き詰められている」という箴言もある。
中部地整側は
「言われたから(数字を)出した」
「撤退ルールについて訊かれていないから説明しなかった」
名古屋市上下水道局側は
「『負担者未定』なのだから当然、原因者である撤退者が負担するのだと国が示したのだと思った。確かめようなどとは考えなかった」
行政組織同士で、知らせないほうが都合が良いことは知らせない、知りたくないことは訊かないし確かめない、という暗黙のルールがあるようだ。そうしておけば、常に「すでに決まったことだから既定方針は変えられない」で済ませてしまえて、面倒なことが起こらない・・・
「知りたくないの(I really don't want to know)」で何百億円という事業負担の見直しさえまともに行われず、理不尽な強いられる住民はたまったものではない。
◇ ◇
こうやって記述してきたことが、それなりに裏づけをもってわかったのが2012年3月。情報公開請求やさまざまなやりとり、国会議員を通した質問などを重ねて、約2年半かかってしまった。
昨年暮れ、とうとう復古反動政権としか言いようのない政権が発足した。
2009年の導水路事業「凍結」を解凍し、事業継続にしようとする動きは急速に強まるであろう。
大村愛知県知事・河村名古屋市長は、そうした類の「中央集権」に屈するのか?
◇ ◇
ウチの温州蜜柑。 意外に甘い。
