ふりかえり「撤退」-(1) |
(Ⅰ) 「撤退ルール」は「撤退しやすいルール」である
2003年10月1日付けで、2002年12月成立した、独立行政法人水資源機機構法が施行され、水資源開発公団は「原則として新規の水資源開発施設を建設しない」独立行政法人水資源機機構に改組された。この法施行を前にして、7月に、水資源機構法施行令が制定され、撤退時の負担金算出のルール(撤退ルール)が定められた。
官庁速報(※)は、以下のように伝えている。
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◎2003年7月1日/官庁速報
自治体、企業のダム撤退で新ルール=費用分担を明文化、過大投資防止-政府
政府は、ダムの水を上水や工業用水に使う地方自治体、民間企業などがダム事業から撤退する際の費用分担ルールを新たに策定する。撤退する事業者に対し、不要になった過去の投資分を負担させたり、引き続きダム事業に参加する事業者の負担額を抑制したりして、費用分担のルールを明文化。計画時よりも需要が落ち込んだ事業者が撤退しやすい環境を整え、過大な投資を防ぐ。
現在、関係省庁で調整を進めており、早ければ7月中旬の閣議で、水資源機構(現在は水資源開発公団、今年10月に改組)設置法の政令案を決定。同機構の設置・管理ダムを対象にルールを導入する。国土交通省が設置・管理する直轄ダムについても、同様のルールを導入するため、特定多目的ダム法の改正も視野に入れつつ、今後必要な検討を進める。
多くのダムでは、洪水時に備える治水容量に加え、工業や農業、上水道などに使う容量があり、治水部分は治水特別会計が負担。利水部分は自治体や民間企業などの事業者が建設費の一部を支出し、利用料金で賄っている。
ただ、事業計画を作った時に比べ、水需要が落ち込んでも、関係者間で計画変更後の事業費をどう分担するかが決まっておらず、計画を変更しづらかった。そのため、実態に合わない過大な投資が続き、確保したダム容量よりも水の利用量が大幅に下回ったり、水道料金や工業用水の料金が必要以上に高くなったりする可能性があった。
新ルールでは、一部利水者が撤退・縮小し、事業計画が変わっても、残された事業者の負担額が過度に増えないよう配慮。一定の算定方法で算出される金額分だけに超過負担を抑える。一方、撤退する事業者に対しては、残された事業者には必要のない過去の投資額や残務処理に要する経費などの負担を求める。
これまでも水資源開発公団の栗原川ダム(群馬)などが中止に追い込まれているが、工事着工前だったため、費用分担の在り方が問題になることはなかった。(了)
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「撤退ルール」制定の目的は明らかである。
※ 中央省庁・地方自治体の動向を毎日速報する時事通信社発行の行政情報紙。行政サイドの情報を「そのまま」伝えている(悪く言えば「垂れ流し」)。
(Ⅱ) 「撤退ルール」は徳山ダム事業費大幅増額を睨んで作られた
2003年6月7日、中日新聞朝刊1面トップ
参照:
徳山ダム堤体盛り立てゼロメートル(0m)の小石~2003.6.7~
http://tokuyamad.exblog.jp/9814211/
本体工事真っ最中の徳山ダムで、2004年度以降に事業費が足りなくなることはわかっていた。この記事の3日前(2003年6月4日付)、徳山ダム建設中止を求める会は、下の「質問書」を出している。
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質 問 書
徳山ダム建設中止を求める会
代表 上田武夫
新聞等に載る、年々の徳山ダム建設事業費を積み上げると、今年あるいは来年に「徳山ダム建設事業費2540億円」を使い尽くしてしまうのではないかと思われます。
公共事業の事業計画における事業費は、「それ以上は支出しない」という納税者・国民との約束です。そしてダム事業における「事業費」は水価、費用対効果等を検討する上で最も重要な要素です。公表され、手続を経た事業費を「膨らませる」とすれば、事業の適否を判断するに際しての重大な土台が変更されることになります。
高度成長期は言い換えればインフレ経済期であり、時間が経てば事業費が膨らむのは当たり前と思われていました。その間に「公共事業とは、納税者・国民が知らないうちに事業費が膨張するもの」ということが常識になってしまったように見えます。しかし、現在のような深刻なデフレ経済の下、そうした旧来の常識を通用させてはなりません。
手続を経て決定された事業費を使い切るときには、いったん事業を凍結し、新たに広範な国民の議論に付すべきです。
以上の観点から、以下のことを質問いたします。
記
1)昨年度までの徳山ダム建設事業費の執行額はいくらか。
2)今年度の予算額(今年度末までに執行される予定額)はいくらか。
3)事業費が2540億円を超えることが確実視されるとき、どのような手続をとろうとしているか。
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回答のないまま、8月の水資源開発公団による「1010億円増額」提示が行われた。
(Ⅲ) 淀川水系流域委員会の動向と特定多目的ダム法施行令
(Ⅰ)の2003年7月1日/官庁速報”中の「国土交通省が設置・管理する直轄ダムについても、同様のルールを導入するため、特定多目的ダム法の改正も視野に入れつつ、今後必要な検討を進める。」の部分。
特ダム法施行令に第1条の2を設けるという形になった。まさに「同様のルール」で、国交省も一緒に説明している。条文としては特ダム法施行令のほうが洗練されてわかりやすいように思う。
淀川水系で宙に浮いていたダムを念頭において、特ダム法施行令改正がなされた、と推測している。
1999年、水資源部は水需要予測の大幅下方修正を行い、ダムによる水資源開発に抑制的とも受け取れる「ウォータープラン21」を出した。
ウォータープラン21
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/d_plan/plan01.html
全国各地で水需要の低迷はあきらかになり、新たな水源(それも非常に単価が高い)確保については、利水者は消極的にならざるをえない状況が生まれていた。
一方、淀川水系流域委員会では「原則ダムなし」提言もあり、洪水調節目的についても疑問符がつけられていた。
なおもダムを作るのかやめるのか?
河川管理者としての近畿地整が「水需給の精査・確認を行う」という一種不思議な状況が生まれていた(淀川水系フルプラン全部変更に向け、2002年に水資源部から各府県に「需要想定調査票」が発出されていたが、その後フルプラン変更手続きは中断し、2009年の淀川水系河川整備計画策定後まで棚上げされていた)。
「水需給の精査・確認」を行っている期間に、河川管理者(近畿地整)は、「撤退ルール」について利水者に説明したそうだ。それは結構。
ただし、あるときの淀川委の配付資料で「丹生ダムにつき、特ダム法施行令で説明した」とあるのにビックリ。「丹生ダムだったら特ダム法ではなく水機構法(施行令)でしょ?河川管理者が間違った法令で説明した、と記録されたらマズイでしょ?」と言っても、当時の近畿地整河川調査官氏はキョトン。何の話?状態。思わずその場から本省の事業監理室に電話してしまった。(さすがに本省は「丹生ダムは水機構法です」とすぐに答えた)
ルールの構造が同じだからといって、官僚さんが適用法令を取り違えるのは、やっぱり問題。普段から「法律による行政」などやっていないことが端無くも見えてしまった。(前例踏襲、上からの指示追従、関係機関と従来からの経緯、等々が優先し、法令は意識の中から行方不明になるらしい)
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• ふりかえり「撤退」-(2) [ 2013-02 -17 22:52 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/18646965/
へ続く。
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1月31日 浜名湖。
とおとうみ(遠つ淡海)と言われるだけのことはある、海かとみまごうほどに広い。
揖斐川最上流部の山あいの徳山ダムは、湖面は遙かに小さいのに、貯水量はこの浜名湖2杯半もある。どんなに多くの空気に触れることなく深く淀んだ「死の水」を抱え込んでいることか。