ふりかえり「撤退」-(2) |
• ふりかえり「撤退」-(1) [ 2013-02 -16 21:29 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/18624318/
から続く。
(Ⅰ) 09年5月名古屋市への第1回「請求」
09年5月15日の中日新聞に報じられた河村たかし名古屋市長の「導水路 撤退」発言。、導水路事業について水資源機構から名古屋市への初回「請求」の支払いを、市長は一時ストップした(結局は年度中に支払っている)。
この時期に第1回の請求があることを、私はゴ-ルデンウィーク入り直前に、ある人からの電話で知った … しかしちょっと考えてみれば、情報を組み合わせれば、ずっと以前からわかることだった。
★ 2008年9月に事業実施計画策定。水資源機構法13条第3項の「同意」に基づき、2009年度から利水者への請求が始まる。
★ 名古屋市の水資源機構への支払い。年度中に分割払いされるうちの第1回支払いは5月に行われる。
… してみると河村氏が名古屋市長選に名乗りを上げたときから、「対策」をとっておくべきだったか?
(Ⅱ) 水資源機構中部支社の「撤退ルール解釈記者会見」
発言の2週間後、5月末の水資源機構中部支社の記者会見のテープ起こしメモを再発見。
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きょうの記者会見で機構側が説明した「撤退ルール」の解釈。テープ起こしそのままです。
答えているのは、水資源機構中部支社の富岡副支社長。
Q:この段階でやめるときのルールや、先行事例を。
A:仮に撤退ということになったら、水資源機構法の施行令の中に一定の定めがある。実際に、最終的に撤退まで成立したという事例はまだありません。
Q:撤退ルールについて詳しく。
A:非常に複雑だが、簡単に言うと、ここまである程度事業が進んできたと考えてもらうと分かりやすい。一人の方が撤退されるということになると、当然、本来作るべき施設の規模はもうちょっと小さいもので良かったことになる。その方が撤退することによって、残った事業者が多少余分の負担をしてしまったことになる。その余分の支出について、撤退する方が残った方の事業に負担をする、お金を出す、お金を出した上で精算する、と。もう一つは、事業を3人でやろうとしている中で一人辞めて、2人になったとする。残り2人で事業続けるためにどうしようかと、新しい事業計画を作るわけだが、事業計画を作ったときに、3人だといろんなことが効率的にできた部分あるが、2人になることによってそれぞれの負担が増えてしまう、と。その結果、自分たちにとって便益、メリット、採算性があるかを検討し、仮に費用が増えることによって採算性がとれなくなった場合、事業を辞めざるをえなくなる。その採算割れしてしまう部分を撤退する方が負担することになる。すでに工事をしてしまったことに対する余分な費用を出してしまったことに対する負担、残った人が事業を続け場合に採算割れしてしまう部分に対する負担、その両方合わせた金額を負担して撤退するのが基本的な撤退ルール。そうした考え方でやることが、ま、いろんなケースがあるので、それが著しく不公平なことになる事態があるかもしれない。そうした場合には別途、負担金については国土交通大臣が負担について定めることができる、というルールになっている。
Q:名古屋市が抜けたいと言えば抜けられるのか、残りの三県がいやだと言えば抜けられないのか。
A:そこは、まだ実際に撤退ルールを使って撤退手続きが完了している事例がない。ルールの中に但し書きの条項もある。著しく不公平となる場合には、別途、負担金の算出できる方法も書いてあるので、今の段階で何とも申し上げることはできない。
Q:ルールあっても、抜けたくても抜けられない場合が出てくるのか。
A:抜ければ、ひょっとすると三県の負担金が増える可能性があるかもしれない。円満に「抜けてもいいよ」となれば、手続きは淡々と進むことになるが、「抜けてもらっちゃ困る」という事情があれば、名古屋市が抜けたいけれどもどうするか、そこの調整がどうなるかは分からないとしか答えようがない。
Q:分からないというのは、ルールを制定したときに詰めていないのか。
A:明確に細かく書いていない。撤退負担金算出の方法については、さきほど説明したルールに書いてあるが、名古屋市が撤退した後の残った事業者が拒否する権利があるかというようなことは、法律には書いてない。そこは実際に協議していく中で実際に詰まっていくことになると思う。
Q:抜けようと思えば、抜けられるわけですね?
A:そこがはっきりと書いてないんです、法律には。
A<機構のS建設部次長>:法律に基づいて事業計画、名古屋市を含む三県との協議とかそういう手続きのもとに現在の導水路事業になっているので、お一人だけ勝手にやめたと言われても、協議が整わない限り、私どもは昨年8月に協議が整った事業実施計画をもって事業を進めているので、勝手にやめたと言われても、名古屋市は<事業者として計画に>入っているので、それは<撤退は>できない。機構法はあくまでも撤退されたという状況が整って初めて、<費用負担を>どう計算するのかという形になっている。フルプラン、事業実施計画に基づいていまの事業進めているので、そこが整わない限り・・・<聞き取れず>。
Q:やめたいと言えば、ルールに基づいて自動的に抜けられるものではないのか。
A<S>:そうです。次なる合意がなされない限り、止められません。
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①
【撤退することによって、残った事業者が多少余分の負担をしてしまったことになる。その余分の支出】=不要支出額。
【仮に費用が増えることによって採算性がとれなくなった場合、事業を辞めざるをえなくなる。その採算割れしてしまう部分】=投資可能限度額を超える額
もしこのとき記者会見に臨んだ記者の手に、上の国交省説明資料「利水者が撤退する場合の費用負担ルールについて」があったら、「不要支出額はいくらか?」「投資可能限度額(※)超過分はいくらか?」と質問しただろう。「名古屋市が撤退した場合の撤退負担金ゼロ円」がクリアだったのに・・・残念。
※ 導水路事業もそうだが、多くのダム(関連)事業では、投資可能限度額=身替り建設費である。身替り建設費とは、多目的ダムが持つ機能をそれぞれ単独に作った場合に要する推定の費用である。つまり共同参画者のすべてが事業から抜けて単独で事業を続けるとしても、「残った者」の投資可能限度額超過額は生じない。
ただし、多くの事業で、真っ当に費用対効果を吟味することなく妥当投資額(「有する効用を金銭に見積つたもの」)=身替り建設費=投資可能限度額となっているのは、過大な投資を是としてしまうことになるので問題だ。
ちなみに、<特定多目的ダム法施行規則 第4条 妥当投資額の算出方法> には、①洪水調節の用途 ②かんがいの用途 ③発電の用途 ④水道及び工業用水道の用途 の4つが挙がっていて、「流水の正常な機能の維持の用途」はない。「流水の正常な機能の維持」は、ダム(関連)事業に付随的なものであって「建設の目的である各用途」たりえないからだ。
徳山ダム導水路、設楽ダムなどのように「流水の正常な機能の維持」が主目的になっている事業の正当性が疑われる。
② なぜ水資源機構中部支社の「撤退ルール(撤退者負担金算出ルール)解釈」記者会見なのか?水資源機構は、法令に従って撤退者負担金の試算を示さねばならいのであって、法令を「解釈」する立場ではない。
他方、この時期、国交省は(中部地整も本省も)、「撤退ルール」について何も言及せず、説明していない。
何かマズいことになったら「あれは水機構が勝手に言ったことで」とするつもりだったのか。
③ 富岡氏の発言部分は、「撤退させたくない」バイアスがかかってはいるもののまるきりウソでもない。
が、後から口出ししてきたS建設部次長のキッパリ発言はまるでウソである。
2003年の「撤退ルール」制定のとき、水公団(現水機構)に何かしら訊くと、建設畑の人間が(つまり土木屋さん)がしゃしゃり出てきては、国交省の説明とは違うことを言っていたっけ・・・。
④ 導水路住民訴訟で愛知県が出してきた「反論(被告第12準備書面)」の、「事業実施計画に反して事業から撤退できると記述されていない」というビックリ”記述”。
裁判長が何度も「撤退」を口にした1月23日導水路裁判口頭弁論
http://tokuyamad.exblog.jp/18423287/
「法令に『出来る』と明文で記述されていないから『出来ない』のだ」というおよそ法律家にあるまじき非常識な論法は、富岡氏の「そこがはっきりと書いてないんです、法律には」から示唆を得たのか?
⑤ 水資源機構は(ということは当然にも国交省は)、5月末の時点で、明確に「撤退ルール」を意識していた。「名古屋市が撤退した場合の・・・試算」をするなら、まずは「撤退ルール」に基づく(法令に基づく)試算を提示する義務があることを承知していたのだ。
だが、7月10日に提示されたのは「負担者未定 111億円」という無意味な数字であった。
H21. 7. 10 木曽川水系連絡導水路に係る三県一市副知事・副市長会議
http://www.water.go.jp/chubu/chubu/20090710hukuhukukaigi.htm
どうやら「撤退ルール隠し」は、国交省と水機構、共謀の上での確信犯だったということか。
この「負担者未定 111億円」が、名古屋市上下水道局資料では「(名古屋市の) 撤退負担金 111億円」に化けてしまった。
「撤退ルール」隠しはダメよ ~「導水路見直し」共同公約から2年~(1)
http://tokuyamad.exblog.jp/18314314/
(Ⅲ)「撤退」大誤解と河村市長・大村知事
○ H21. 8. 7 木曽川水系連絡導水路事業監理検討会(第7回)
http://www.water.go.jp/chubu/chubu/kisorenhyousi.htm
この検討会の後の記者会見を報じた中日新聞 2009年8月8日 朝刊 の記事。
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中止は3県同意必要 徳山ダム導水路で国などが見解
徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を木曽川に流す導水路事業の課題を検討する国や東海3県、名古屋市の検討会が7日、市内で開かれ、国などは、国土交通相が事業の中止を決める際には、3県知事の同意が必要だとする見解を示した。
名古屋市の河村たかし市長は、導水路事業について2日の討論会後、衆院選後に正式に撤退表明することを示唆。政権交代で国交相が代われば、事業中止が可能になるとの期待感をにじませたが、これに反論した形だ。
検討会は非公開で行われ、中部地方整備局の山内博広域水管理官、水資源機構の富岡誠司副支社長が終了後に記者会見した。
河村市長は「市の撤退に3県の同意は不要」との解釈も示しているが、国などは認可された「事業実施計画」の変更手続きが不可欠で、費用負担などに関する3県の同意がいると強調。国交相が事業中止を決める際も「3県知事の意見を聞いた上で同じ手続きが必要だ」とした。
会見によると、検討会では2日の“河村発言”に対して、愛知県や他県から「国政選挙の結果は関係ないのでは」「大臣の政治的判断に預けようとする姿勢は地方分権の精神から極めて疑問」などの意見が続出。市が求めている撤退時の負担金の試算も「市が正式に撤退を決めたわけではない。(3県の)皆さんの合意なしに算定はできない」と一蹴(いっしゅう)された。
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パっと見、「名古屋市が撤退するには3県の合意が必要」とあるように見える(が、必ずしもそうでもない)。河村氏自身がこの「3県の合意が必要」論調に引きずられていったように思える。
<河村市長は「市の撤退に3県の同意は不要」との解釈も示しているが>
撤退は、単独意思で行われるものであって、他の関係者の同意もへったくれもない。
<国などは認可された「事業実施計画」の変更手続きが不可欠で、費用負担などに関する3県の同意がいると強調。>
まずは「撤退」があって、その後に事業実施変更がある。事業実施計画変更が「撤退」の条件になるわけではない。撤退後に、撤退者と「残った者」に対し、まずは法令に基づく(「撤退ルール」による)費用負担の提示がなされ、その後に水機構法13条第3項の「同意」手続きとなる。
<国交相が事業中止を決める際も「3県知事の意見を聞いた上で同じ手続きが必要だ」とした。>
撤退=中止ではない。正式中止とするには事業実施計画廃止、フルプラン変更、河川整備計画変更が必要だという意味では間違ってはいない。
が、事業実施計画変更にしろ廃止にしろ、法令に基づく費用負担額が提示されなくては、同意もなにもしようがない。
<会見によると、検討会では2日の“河村発言”に対して、愛知県や他県から「国政選挙の結果は関係ないのでは」「大臣の政治的判断に預けようとする姿勢は地方分権の精神から極めて疑問」などの意見が続出。市が求めている撤退時の負担金の試算も「市が正式に撤退を決めたわけではない。(3県の)皆さんの合意なしに算定はできない」と一蹴(いっしゅう)された。>
<市が求めている撤退時の負担金の試算も「…(3県の)皆さんの合意なしに算定はできない」と一蹴された。>
「一蹴した」ではなく「一蹴された」とあるのは「検討会では…」の続き、非公開の検討会の様子を伝えた、という意味なのだろう。会見に臨んだ山内・富岡氏が「一蹴した」のならトンデモナイ法令無視(法令違反宣言)だ。
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こうしてみてみると、
① 5月末時点では、曲がりなりにも「撤退ルール」は意識され、言及されていた。
② 7月10日の副副会議では、言い訳がましい文言は残したものの、「撤退ルール」による試算はされず、無視されている。「撤退ルール隠し」にはいっている。
③ 8月7日の「検討会」では、完全に「撤退ルール」の存在を抹殺した。「…つまりは事業実際計画変更だ」として、事業実施計画変更一般の話に流し込んでいる。
(このアタマでいくと愛知県の第12準備書面の「事業実施計画に反して事業から撤退できると記述されていない。(中略)つまり、事業から撤退するためには、(中略)木曽川水系フルプランの変更がなされる必要がある」なる論が出てくるのだろう)
河村発言直後の水資源機構記者会見から日が経つに連れ、より明確に「法令無視、撤退ルール抹殺」の河村包囲網が形成されたようだ。
この「撤退ルール抹殺」シナリオを描いて主導したのは一体誰(どこ)なのだろう?
(富岡氏についてはあまりよく知らないが、山内氏とは1997年以来の長々の「お付き合い」だ。彼は、律儀で生真面目なお役人であり、政治的方向性をもったシナリオを自ら描いて主導するようなことはしない(できない)。)
「撤退ルール抹殺」シナリオは、愛知県、名古屋市の中で今も大手を振って生きているようだ。
かくて河村氏はその後は何も動かず、大村知事は共同マニフェストをもって当選して以来2年経つ今も前知事の「推進」方針を維持・踏襲している。
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• ふりかえり「撤退」-(1) [ 2013-02 -16 21:29 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/18624318/
• ふりかえり「撤退」-(2) [ 2013-02 -17 22:52 ]
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2月3日、円頓寺
東アジアの仲間と旧正月を祝う会が円頓寺商店街で行われた。