破綻ダム 弥栄ダム/徳山ダム |
山口県と広島県の県境にある国直轄の特定多目的ダム 弥栄(やさか)ダム。
1971年着工、1990年完成。
山口県が弥栄ダムで確保した工業用水道ダム使用権は4万500m3 /日(計画給水量は、3万7600m3 /日)。山口県は2000年に送水ルートを建設して5600m3 /日を事業化(うち3600m3 /日しか契約できていない)。3万2000m3 /日については事業化のメドも立たず、県企業局の借金は膨らみ、とうとう正式に破綻処理(知事部局へ移管)することになったという報道。
破綻が破綻として明らかになった、という意味では「一歩前進」と思うのだけど?
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☆ 読売新聞山口版 2013年2月14日
弥栄ダムめぐる県企業局の借金153億円、県が肩代わりか
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamaguchi/news/20130213-OYT8T01351.htm
国の多目的ダム「弥栄(やさか)ダム」(岩国市、広島県大竹市)で工業用水道事業を行っている県企業局の借金約153億円を県が肩代わりし、事業を引き受ける可能性が浮上している。
同事業の収益が上がらず、ダム建設費などの返済が困難になったためだ。同事業が県に移管されれば、企業局の「見通しの甘さ」を税金で清算することになり、県財政に大きな負担となりそうだ。(高橋宏平)
県企業局によると、弥栄ダムは、国が総事業費約1100億円で1991年に完成させた。県は着工前の73年、工業用水の需要を見込んで計画に参画。建設費のうち約74億円を負担する代わりに、1日に約3万7600トンを利用する権利を得た。
県は2000年、弥栄ダムと柳井地域を結ぶ小瀬川第2期工業用水道事業を始めた。しかし、工業用水として利用されているのは現在、全体の1割に満たない約3600トン。
残りの大部分の約3万2000トンについては、利用が見込めずに水を送る設備さえ整っていない状況だ。同事業は開始以来、毎年度赤字が続いており、収益は上がっていない。
企業局はダム建設費の負担分を捻出するために企業債を発行。工業用水販売による収益で償還する計画だったが、その後のバブル崩壊や長引く景気の低迷で、需要は当初見込みより大幅に減少した。
独立採算制の企業局の収益では、企業債の償還や利子、ダムの維持費などはまかなえず、一般会計からの借金で穴埋めしている。
11年度末現在の借金は約153億円で、18年度には162億円に膨らむ見通し。19年度から約25年かけて返済する予定だが、「企業局の収益では返済は困難」(企業局)という。
工業用水道事業を巡る同様の事例は他県でもあり、島根県では、12年までに県が補助金で企業局の借金計約57億円を帳消しにし、事業を知事部局に引き継いだ。
山口県監査委員は昨年9月、決算審査意見書で「他県での取り組みも参考に検討を行うべきだ」と指摘。県と企業局は近く、事業を県に移管すべきかどうか判断する方針だ。
ただ、移管すると企業局の見通しの甘さのツケを県民の税金で負担し、利用のめどが立たない大量の水を知事部局が抱え込むことになる。
県企業局総務課は「治水の面からもダムは必要だったので、県が計画に加わる必要があった」と釈明。「仮に知事部局に移管しても、使途を工業用水に限定せず、県民の利益になる幅広い活用方法を知事部局と検討したい」としている。
☆ 中国新聞2013年2月15日
山口県、155億円の債権放棄
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201302150039.html
山口県は14日までに、県企業局に貸し付けた約155億円の債権を放棄する方針を固めた。独立採算を基本とする企業局の事業低迷のつけを一般会計で穴埋めする形。苦しい県財政をさらに圧迫しそうだ。
企業局の負債が膨張したのは国の多目的ダム「弥栄ダム」(大竹市、岩国市)を水源とする工業用水道事業が主因。弥栄ダムを起点に企業局が42キロの送水ルートを2000年に整備したものの1日3万7600トンのダム使用権に対し、中国電力など3社計3600トンの利用にとどまっている。
企業局は一般会計からの借り入れで国へのダム建設の分担金払いなどを続けてきたが、借金返済のめどが立たず、県が債権放棄をする形で決着を図る。
県は12年度一般会計補正予算案に、企業局の負債残高と同額の約155億円を計上。26日開会予定の県議会定例会での議決を得た後で企業局に一括支給し、同額を一括返済させて企業局の債務を解消させる。
企業局は国のダム建設分担金や維持管理費の支払いについて1991年度以降、一般会計から借り入れて対応してきた。バブル崩壊や長引く不況で工水需要を見誤った形だ。
この問題について、山本繁太郎知事は昨年11月の会見で「工水だけにとらわれず(未利用の水源は)県にとって産業の開発、再生に必要な資源になる」と述べ、一般会計で負担する可能性を示唆していた。
【写真説明】広島、山口県境の弥栄ダム。山口県企業局の工業用水道事業の累積赤字の主因となった
☆ 読売新聞山口版 2013年2月21日
弥栄ダム企業局の借金県が帳消し…155億円の補助金で相殺
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamaguchi/news/20130220-OYT8T01631.htm
国の多目的ダム「弥栄(やさか)ダム」(岩国市、広島県大竹市)の工業用水道事業の収益が上がらず、県企業局の企業債償還などを一般会計で穴埋めしている問題で、県は企業局の借金を帳消しにして事業のほとんどを引き受けることを決めた。
県議会2月定例会に、企業局への約155億円の補助金を盛り込んだ今年度一般会計補正予算案を提案する。
ダム建設の総事業費約1100億円のうち、企業局は約74億円を負担。同事業として、1日あたり3万7600トンの使用権利を得たが、契約は3600トンにとどまり、収益は上がっていない。
このため、企業局はダム建設費捻出のために発行した企業債の償還や利子、ダムの維持費を賄うために一般会計から借り入れ、借金が膨らんでいた。
企業局は補助金で借金を相殺。事業化されていない3万2000トンの使用権は知事部局へ移管される。償還が残っている企業債約4億円の支払いや、年間約4000万円のダム維持費も一般会計で賄う。
山本知事は19日の記者会見で、「(未事業化分を)県民の重要な資産として、引き続き面倒をみたい」と話した。県企業局総務課は「知事部局と相談し、未事業化分の使途を幅広く検討したい」としている。
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★ 弥栄ダム
・ 総貯水容量/有効貯水容量 112,000千m3/106,000千m3
・洪水調節容量 58,000千m3
・利水容量 48,000千m3 (都市用水 32,500千m3 不特定用水 15,500千m3)
・総事業費1100億円
・アロケーション
国(治水) 69.3%
広島県(水道) 10.0% : 6万500m3 /日(0.70 m3/s)
柳井地域広域水道企業団 8.3% : 5万m3 /日(0.58 m3/s)
広島県(工水) 5.0% : 3万m3 /日(0.35 m3/s)
山口県(工水) 6.7% : 4万500m3 /日(0.47 m3/s)
中国電力 0.7%
★ 「送水ルート」について
ダム完成後10年を経た2000年、柳井地域広域水道企業団と山口県企業局が、弥栄ダムと柳井地域を結ぶ42kmの「送水ルート」を共同して建設。「送水ルート」事業費252億円のうち工水分(山口県企業局)は37億円。
山口県企業局が弥栄ダムでの確保分の工水開発水量は4万500m3 /日。これに有収率93%をかけた3万7600m3/日が計画給水量。そのうち5600m3 /日を「送水ルート」で事業化。契約できているのは3600m3 /日。
今般事業化されていない3万2000m3/日を知事部局に移管し、「幅広く使い途を検討する」のだそうだ。まだ「工業水道に供さない」と決めたわけではないので、経産省からの補助金は「そのまま」。・・・会計処理としては破綻を明確にしたけど、責任の所在はあいまいで最終処理は中途半端、ということ。
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弥栄ダムの破綻報道に関連して、山口県内の別の破綻ダムの報道もあった。
山口県営中山川ダム。一滴も利用されないまま水道企業団は昨春解散。
☆ 中国新聞2013年2月24日
ダム完成…一滴も利用されず
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201302240006.html
多額の税金をつぎ込んで完成しながら一滴も上水道事業に利用されなかったダムが岩国市の山あいにある。同市周東町の山口県営中山川ダム。
利水計画を進めた企業団は採算が見込めず昨春解散。光、周南、岩国3市が権利を引き継いでいまも借金払いを続ける。景気浮揚を旗印に再び脚光が当たる公共事業だが、重い負の遺産が地域に横たわっている。
「ことしは水不足が深刻だったが、これで近隣市町に安定した水の供給ができる」。中国地方が異常渇水に苦しんだ1994年秋。平井龍知事(当時)は中山川ダム完工式でこうあいさつしてくす玉を割った。
流域の光市と玖珂郡周東、玖珂、熊毛郡熊毛、大和町(いずれも当時)に上水を供給する多目的ダム。131億円もの事業費が投じられ、1市4町で組織する広域水道企業団が約59億円を負担した。
上水道を確保して人口増を図り、地域発展にも結びつけたい―。県の後押しもあり、地域は大きな「夢」を描いた。しかし、ダム建設途中でバブルは崩壊し、人口増などの計画もあっさり頓挫した。
ダムは当初予定より8年遅れで完成したものの、上水施設や配管を整備するための100億円を超す計画を実現する力は企業団にはなかった。
事業を止めると補助金返還を迫られるため、計画は店ざらしにされた。結局、企業団は元利合わせ約72億円の事業費だけを背負い込み、2012年に解散した。
企業団を構成した1市4町は平成の大合併で光、岩国、周南3市になった。その3市はダムの水利権を分割取得するのと引き換えに企業団の負債を継承。払い続ける借金はいまも約18億円残る。
企業団解散後、周南市は光市の浄水場を経由して熊毛地区にダムの水を引く準備を始めた。配水管工事も進めているが、整備にはさらに約58億円が必要な見通しだ。一方、光、岩国両市では現時点で水利権を活用する予定はない。
県は今春、広島県境の弥栄ダム水源の大半が活用されず、赤字が続いていた小瀬川第2期工業用水道事業の負債155億円を県民の税金である一般会計で肩代わりすることも決めた。甘い見込みで窮地に陥った公共事業のツケはいまも地域に重くのしかかる。
【写真説明】131億円もかけて完成しながら一滴も上水道として利用されないまま企業団が解散した岩国市周東町の中山川ダム
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翻って一滴も利用する当てのない岐阜県徳山ダム。
岐阜県には徳山ダムで開発した水の借金を償還する企業会計が「存在しない」。
で、徳山ダム工水の建中償還のときから「一般会計から直払い」。真正面からの地方財政法6条違反!!! (※)
一般会計からの直払い償還金額はハンパではない。
岐阜県負担分エクセル
http://www.tokuyamadam-chushi.net/sonota2/gifukenhutan.XLS
県財政が苦しく起債許可団体となっている時期(2010年度~2012年度)にも、しっかりとこの巨額の借金を水資源機構に直払いし続けている。
※ 1976年完成の岩屋ダムの工水も一般会計から直払いで償還済み。ここでは直接取水でわずかに利用されているが、償還するだけの規模の企業会計は作れずにいる。
岐阜県・徳山ダムの新規利水は、企業会計を置かず(置けず)、直払い償還をすることで、「企業会計が一般会計から借金をしている」という形式(痕跡)すらもない。この岐阜県の場合よりは、山口県の堂々たる(?)破綻宣言はマシというべきなのだろう・・・・
岐阜県民としてはかなりフクザツ。
岐阜県が起債許可団体に [2010-09-18 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/14618511/
「命」の沙汰も金次第? 嗚呼 徳山ダム [2010-06-28 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/14074558/
徳山ダムの岐阜県負担1157億円!! [2010-03-22 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/13175602/
続・徳山ダムの岐阜県負担1157億円!! [2010-03-26 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/13211884/
続・続・徳山ダムの岐阜県負担1157億円!! [2010-04-12 2]
http://tokuyamad.exblog.jp/13398342/
続・続・続・徳山ダムの岐阜県負担1157億円!! [2010-05-20 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/13758089/
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徳山ダム。右は2003年11月。堤体盛り立て中。