八ッ場ダム東京高裁判決と「撤退」と厚労省「新水道ビジョン」 |
3月29日、東京高裁で八ッ場ダム住民訴訟控訴審(1審 東京地裁)の判決があった。
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☆ 産経新聞 SankeiBiz.2013.3.2914:37
八ツ場ダム訴訟、建設反対派が2審も敗訴 東京高裁
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/130329/cpb1303291439001-n1.htm

(写真)八ツ場ダム10+ 件建設により水没する地域の代替地を結ぶ「湖面1号橋」の工事などが進んでいる=長野原町
八ツ場(やんば)ダム(群馬県)への建設負担金の支出は違法として、建設に反対する市民団体が流域6都県に支出差し止めなどを求めた訴訟で、東京都分の控訴審判決が29日、東京高裁であった。
大竹たかし裁判長は請求を退けた1審東京地裁判決を支持、住民側敗訴の判決を言い渡した。
1審段階では6都県の地裁で請求がいずれも退けられており、控訴審判決は今回が初めてだった。
市民団体側は訴訟を通じ、水道用水を確保する利水について「都内では生活用水の使用量は減少傾向にあり、都の水需要予測は過大」と主張。水害を防ぐ治水効果も乏しいと訴えた。
しかし、1審東京地裁は「首都で渇水が生じれば大きな混乱が生じるのは想像に難くない」などとして利水上の有用性を認定。治水面でも「流域で生じる水害の発生を防止するためにダムは必要」と判断し、請求を退けていた。
八ツ場ダムは昭和27年に建設計画が浮上。地元は激しい反対運動の末に補償案を受け入れたが、「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた民主党への政権交代に伴い平成21年9月、前原誠司国交相(当時)が本体工事の中止を表明した。
その後計画中止は撤回されたが、現在もダム本体工事は始まらず、完成のメドは立っていない。
総貯水量1億750万トンの多目的ダムで、総事業費は国内最高の約4600億円。群馬、東京、千葉、埼玉、茨城、栃木の6都県が半分以上を負担する
☆ 朝日新聞デジタルトップ地域トップ 群馬版
八ツ場ダム原告側、上告の意向
http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20130401100580001.html
八ツ場ダムへの公金支出差し止めを都に求めた住民訴訟で、29日の東京高裁の控訴審判決は、原告側の訴えを再び退けた。原告側は「無駄な公共事業の奨励」と反発し、上告する意向を表明。同種訴訟で被告になっている県は「妥当」と歓迎したが、本体着工は見えず、国の対応へのいらだちも見せる。
「控訴人らの請求は、不適法ないし理由がない」。大竹たかし裁判長は、都の様々な負担金の差し止めを求めた訴えをすべて却下または棄却した。「国土交通相の通知に重大かつ明白な違法や瑕疵(か・し)がない限り、負担金の支出が違法と認めることはできない」とした。
原告側は控訴審で、治水や利水などの論点について最新の研究などをもとに新たな証拠を提出し、「不要論」を展開してきた。だが、高裁判決は中身には踏み込まず、原告側の訴えをすべて認めなかった。
利水では、都による将来の水道需要予測について「直ちに合理性を欠くものとは認められない」と判示。治水は「八ツ場ダムで都が『著しく利益を受ける』ものではないと認められる余地があるとしても、それが明白であるとは認められない」とした。
八ツ場ダムは国直轄の多目的ダム。国内のダムで最大の4600億円の総事業費は、特定多目的ダム法に基づき、うち約2600億円を6都県などが受益の度合いに応じて負担する。
6都県の住民は2004年に各地裁に提訴し、一審では、すべて原告側が敗訴。今回の控訴審判決は都民37人が控訴人だ。群馬など他の5県の訴訟は、東京高裁で口頭弁論に向けた協議をしている。
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判決の後、原告や弁護団は記者会見を開き、判決に猛反発。最高裁に上告する考えを明らかにした。
「裁判所の存在意義がない」。原告の一人で、八ツ場ダムをストップさせる東京の会代表の深沢洋子さんは、怒りをあらわにした。
高橋利明弁護団長は「20年間、都の水需要は減り続けている。近いうちに人口も減る」と指摘。
「私たちが足で調べた事実に一切触れていない」と述べ、八ツ場ダムが治水や利水のために必要かどうかの具体的な検討に、判決が踏み込まなかったことに不満を表した。
また、大川隆司弁護士は「地方自治体は国に従属すると考えていることが大問題」と主張した。
支援者らへの報告会には、群馬など5県の訴訟の原告も集まった。八ツ場ダムをストップさせる群馬の会代表の真下淑恵さんは「(群馬分の訴訟は)進行協議中だが、楽観できない。原告の高齢化も進んでいる」と不安を口にした。(小林誠一、山下奈緒子)
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「妥当な判決だ」。県特定ダム対策課は、都勝訴の判決を評価した。同じ東京高裁で、同趣旨の公金支出差し止めの住民訴訟の控訴審の弁論を控え、「同様の判決が出されると確信している」と強気だった。
群馬分は04年11月に提訴され、09年6月に前橋地裁で県が勝訴。弁論開始は7月ごろとみられる。
もっとも、県は訴訟の行方以上に、ダム本体工事の着手時期に気をもんでいる。民主党政権下の3年3カ月を中心に実質4年間、何も進まず、自公政権に戻っても13年度予算で計上されたのは12年度と同じ関連工事費18億円だけ。違いは工事が2年にまたがるため債務負担行為で14年度に6億円を計上することが決まったことだけだ。
国土交通省は27日、自民党のダム推進の国会議員の会合で15年度完成は困難と表明。基本計画の見直しが必要なことをようやく認めた。大沢正明知事は28日に出したコメントで、「すみやかに計画変更手続きに入り、最大限工期短縮に努力して早期に完成させて」と促した。(長屋護)
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東京高裁判決は
八ッ場ダム訴訟ホームページ http://www.yamba.sakura.ne.jp/
に載っている。
八ッ場ダム 東京高裁判決(2013.3.29) 判決文
http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/tokyo_k/hanketsu_tokyo.pdf
基本的に被控訴人の言い分をまるっと認めたつまらない判決だが、ダム使用権申請の取り下げ(特ダム法12条)に関しては、1審判決より大分踏み込んでいる。
特ダム法12条のダム使用権申請の取り下げは、水資源機構法13条の「撤退」に対応する規定と考えれば、随分使える記述と思う。
p29
「特ダム法12条は、ダム使用権設定予定者のダム使用権の申請が却下され、又は取り下げられたときは、その者がすでに納付した第1項の負担金を還付するものとする旨規定し、ダム使用権設定申請の取り下げを特に制約する規定は置いていない。したがって、ダム使用権設定予定者は、ダム使用権設定申請を取り下げることにより、建設負担金の負担義務を免れることができるものということができる。そうすると、被控訴人水道局長が、ダム使用権の設定申請をする行為が合理性を欠く場合には、その建設負担金の支出について、被控訴人水道局長は、ダム使用権設定申請を取り下げることによって、その負担義務を免れよう務めるべき財務会計法規上の義務があると解すべき余地があるというべきであり、また、ダム使用権の設定申請には上記のような瑕疵がないとしても、その後の事情の変更により、ダム使用権設定予定者たる地位を維持することが、合理性を欠くと認められる場合においても同様であって、被控訴人水道局長は、ダム使用権設定申請を取り下げることによって、その負担義務を免れよう務めるべき財務会計法規上の義務があると解すべき余地があるということができる。」
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同じ3月29日、厚生労働省は「新水道ビジョン」を発表した。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002yndb.html
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「新水道ビジョン」について
厚生労働省においては、平成16年6月に「水道ビジョン」を策定(平成20年3月改訂)し、これに基づいて施策の推進を図ってきたところです。
今般、水道を取り巻く環境の大きな変化に対応するため、これまでの「水道ビジョン」を全面的に見直し、50年後、100年後の将来を見据え、水道の理想像を明示するとともに、取り組みの目指すべき方向性やその実現方策、関係者の役割分担を提示した「新水道ビジョン」を別添のとおり策定しましたので公表します。
別添 ↓
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002yndb-att/2r9852000002yngq.pdf
第1章 はじめに
・・・・平成25年現在、水道をとりまく状況は、水道ビジョンを公表した9年前や改訂した5年前とは大きく変化しました。
その一つが、日本の総人口の減少です。統計データによると、日本の総人口は平成22年頃、1億2806万人を最大値として、以後、減少傾向に転じています。現在の年齢別の人口構成や出生率の状況を踏まえると、今後の人口の減少傾向は確定的であり、このことは水道にとって給水人口や給水量も減少し続けることを意味します。水道ビジョンの改訂までの時代は、水道は拡張を前提に様々な施策を講じてきましたが、これからは、給水人口や給水量の減少を前提に、老朽化施設の更新需要に対応するために様々な施策を講じなければならないという、水道関係者が未だ経験したことのない時代が既に到来したといえます。
p19-20
第5章 取り組みの目指すべき方向性
5.2.3 持続の確保
① 水の供給基盤の確保に関する取り組みの方向性
・・・これまで水道事業者は将来の最大給水量を見込んで施設整備を行ってきました。今後、水道事業者は、施設の更新時に、当該施設の余剰分を廃止して規模を縮小するのか、あるいは一定の目的のために更新して保有するのかという、難しい判断を迫られることになり、事業規模を段階的に縮小する場合の水道計画論の確立が必要といえます。
P22
第6章 方策の推進要素
・・・我が国の水道を取り巻く環境は、すでに人口減少社会の中にあり、東日本大震災の経験を教訓に抜本的な危機管理体制の見直しが求められます。方策推進の過程では相当な困難を強いるものとなっており、給水人口、給水量ともに減少傾向にありますが、平成25年時点では、未だピーク時に近い値を維持しています。特に水道事業者は水道施設や料金収入、職員数やその専門性の面において、対応余力を残しているうちに、適切な方向性を定め、将来の水道の理想像の実現に向けた取り組みを開始しなければなりません。
6.1 挑戦
・・・将来の我が国の総人口が半数程度にまで減少した時代に、水道が理想の姿をもって、地域の利用者の信頼を得て水を供給し続けるためには、これまでの右肩上がりの常識を排し、新たな事業環境に順応し適応すべく、関係者が挑戦する意識・姿勢をもって取り組みを進める必要があります。
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1999年に当時の国土庁水資源部が出した「ウォータープラン21」にもこの兆しはあった。その後の水資源白書も新規水資源開発施設建設には消極的である。
そして今回、厚労省はかなり踏み込んだ。
水需要が現在より増えることはありえないこと、「売り上げ」が増える展望もないこと、その上で老朽化施設の更新需要に対応しなければならないこと。
水資源機構法13条第3項括弧書きにある「撤退」
事業からの撤退=当該事業実施計画に係る水資源開発施設を利用して流水を水道又は工業用水道の用に供しようとした者が、その後の事情の変化により当該事業実施計画に係る水資源開発施設を利用して流水を水道又は工業用水道の用に供しようとしなくなること。
計画時に「要る」とした利水者(水道事業者の判断が「著しく合理性を欠く」とまでは言えないとしても、「その後の事情の変化」は大きく、水道事業者が真剣に「撤退」を検討するに値する、と厚労省がおっしゃっている・・・右肩上がりの時代に計画された水資源開発施設建設に固執している場合ではない・・・
異常気象による未曾有の大渇水がある、100年スパンで施設対応で備えるのだ、と名古屋市上下水道局の担当者は宣っていた。だが、どう考えても来るべき南海トラフ大地震によって被る水道施設の損傷のほうが、異常渇水による取水制限被害より遙かに確実で甚大である。
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だが、「公共事業で景気回復を」という1990年代にしっかり破綻した政策に邁進する安倍政権と、それに乗っかろうとする地方公共団体は、立ち止まって考えようとしない。
岐阜県議会は、民主党会派をも巻き込んで、「再検証なんてさっさと切り上げて工事を促進しろ」と意見書を上げた。
木曽川水系連絡導水路及び新丸山ダム建設事業の推進を求める意見書
http://www.pref.gifu.lg.jp/gikai/teireikai/h25/dai1/hatuan/kisogawa.html
この議員さんたち、徳山ダムの有様を少しでも考えてみたことがあるのだろうか。
(多分、木曽川水系連絡導水路も新丸山ダムも、岐阜県は利水者としての立場で関わっていない、ということで思考をスルーさせてしまうのだろう。)
徳山ダムの水、岐阜県分 水道水1.2トン/秒、工業用水1.4トン/秒は、大垣地域で使われるはずだった。揖斐川に取水施設を作れば導水路などなくても取水できる。だが、この地域で徳山ダムの水を使おうという話は片鱗もない。独立採算制の企業会計に乗せなくてはならないこの償還分を、まるっと一般会計から直払いで償還している(こんな全国でも岐阜県だけ。完全に地方財政法違反!)。
今年度も一滴も使わない(使う予定もない)水の償還分として、27億円超が一般会計から出ていく。全くの「捨てゼニ」「死にカネ」である。

上記表の元データ(岐阜県河川課作成)エクセル
http://www.tokuyamadam-chushi.net/sonota2/gifukenhutan.XLS
こうなることはわかっていたから、徳山ダム裁判を提起した。
だが裁判所は岐阜県を勝たせてしまった。
裁判所も行政も責任はとらない。
かくて霞が関官僚さえも、転換すべしとと忠告(警告)している無駄な公共事業は止まらない。
<呟き> 霞が関官僚は「総論は結構なことを宣うが各論では旧態依然、従来通り」なんだよなぁ。
