徳山ダムの水は「品質保証」されていない |
朝日新聞2013年11月6日の夕刊。(記事テキストは下のほうに貼り付け)
木曽川水系連絡導水路。
アロケーションの34.5%を占める利水。利水者である愛知県と名古屋市は、どうあがいても「普通のとき」には、徳山ダムの水が要るという話にはならない。「異常渇水時の備え」という屁理屈(にもなっていないが)でしか出番はない。
65.5%を占める治水。治水といっても洪水対策ではない、正常流量を確保する(流水の正常な機能を維持する)とかいう話である(※)。勿体なくも有り難くも、890億円×0.655=583億円もの巨費をかけて、長良川と木曽川の環境改善、とりわけ異常渇水時の「危機管理」として、 徳山ダムのい水を流して下さる、というのである。長良川河口堰で痛めつけられた長良川にとって、嬉しい話(?)ではない、ということはもう明白だ。異常渇水時に水温の低い水を流すことの生物環境への悪影響については、調査もせずに(そういう問題意識を排除して)、これまで進めてきたのだ。生物は「毎秒○○立方メートルのH2O」で生きているわけではない。どういう水か、が大問題だ。
水温についてあえて無視するにしても、「徳山ダムの水は悪くはない」というくらいのレベルの「品質保証」はするべきだろう・・・そうでなければ、まさに悪徳押し売り商法である。
※ 何度でもいう。特定多目的ダム法施行規則第4条に、妥当投資額の算出方法についての規定があるが、① 洪水調節 ② かんがい ③ 発電 ④ 水道及び工業用水道 であって、「正常流量確保」とか「流水正常機能維持」とかいう項目はない。ダム等を作るから、流水の正常な機能が維持できなくなる、その補償措置として「流水正常機能維持」がダムの目的に加わる-だからどのダムにもこれがある-、付随的な目的であり、最初から建設目的になるようなものではない。この理は、河川官僚はとっくにご承知だが、ダムを批判する側はあまり言及しないのはなぜだろう?
それが、なのである。
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徳山ダムの底、水温急上昇 鉄が溶け出し?
http://www.asahi.com/articles/CMTW1311062400004.html
(朝日新聞 2013年11月6日16時52分)
左写真:観光放流が行われた徳山ダム=2009年4月29日、岐阜県揖斐川町、本社ヘリから、恵原弘太郎撮影
国内最大の徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水温が、ダム底近くで急上昇していることが分かり、水資源機構が調査に乗り出した。
低酸素の水中で、地中の鉄やマンガンなどが溶け出した影響の可能性がある。同機構の奈良俣ダム(群馬県)でも同様の現象があり、水質障害を避けるため、対策に乗り出している。
水資源機構は徳山ダムで水温を毎月計測している。
直近の2011年の計測では、満水時の表面に近い標高390メートル付近は月によって5~28度とばらつきがあるが、深くなるにつれ徐々に低下。標高340メートルから下は5度前後で安定していた。
ところが、ダムの底に近い標高280~290メートル付近から突然水温が上昇し始め、最下部の265メートル付近は8度だった。
通常、湖では水深数十メートルより深くなると、光や外気の影響を受けず、水流も起きにくいため水温は一定になる。水は4度で比重が最も大きくなる性質があり、温度が高い水が底層にとどまることは本来ない。
昨年12月、ダム管理のアドバイスをするダムフォローアップ委員会で、信州大理学部の沖野外輝夫名誉教授(生態学)が指摘。9~11月の調査で、調査地点を増やして比較する。今年度中に結果をまとめたいという。
水資源機構や沖野名誉教授などによると、原因として(1)光が届かず、光合成が行われない底層は無酸素状態で、徳山ダムに多い鉄やマンガンなどが熱を出しながら溶け出して、比重も大きくなった(2)コスト削減のため、山林伐採をせずに貯水したため、底に沈殿した有機質が分解し、同様の現象が起きた(3)計測器付近で地下水や温泉が噴き出したなどが考えられるという。
徳山ダムの貯水量は満水で国内最大の6億6千万トンあり、底層の水は入れ替わりにくい。同じ揖斐川の下流にあるが、深さが半分の横山ダムでは、こうした現象は起きていない。
ダム底の水に鉄などが溶けていた場合、黒水や赤水といった水質障害を起こすことがある。ただ徳山ダムは、需要予測が狂い、今のところ水は利用されていない。また最も低い放流口は標高305メートル付近にあり、ふだん、水温異常の水が流れ出すことはない。
奈良俣ダムでは11年度以降、ダム下部の放流口から放流することで湖内の水をかき回した。徳山ダムは下部の放流口より低い部分の水温異常のため、水をかき回すには、地上から強制的に空気を送り込む大がかりな装置が必要になる可能性がある。
水資源機構中部支社施設課の江部徹也課長は「普段使わない底の水なので、すぐ対策が必要になるかどうかは分からない」としながらも「通常ありえない現象なので、原因解明はしなければいけない」と話した。(編集委員・伊藤智章)
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昨年12月11日開催の 平成24年度中部地方ダム等管理フォローアップ(FU)委員会は傍聴に行っていた。沖野委員の指摘(議事要旨に)も聞いた。
この「水温鉛直分布」のグラフを見れば、誰でも「???」と思う。「当たり前の指摘。水機構は何かしらの『答え』を用意しているはず」と思った。逆に言えば、「誰でも不思議に思うこのことに『答え』らしきものが用意できていないなら、このグラフそのものを出さないろう」と考えた。
だが、いつまで経っても「答え」らしきものが見えない。夏前に「FU委員会の指摘があったからには、その”要因”を突き止めるための調査をしているのね?」と聞くと、「鋭意準備中です」とのこと。「へぇ、年度が変わっても、発注もしてないんだ。FU委員は嘗められているんだぁ。FU委員会なんてどうせお飾り、無意味、とあなた方が言ってしまったようなことになる、それは拙くない?」とかさんざんイヤミを言いながら、何度も回も情報公開請求をかけ続けた(つまり「調査」していないので、私が請求した文書は「不存在」だ、と言い続けてきた、ということ。秋風が吹き始めても「準備中」で、今般、やっと来週には「それらしき調査データ」を出すと言っている)。
この状態での上記の記事であった。
記事に出てくる 平成24年度中部地方ダム等管理フォローアップ委員会の資料のURLと載っている場所を摘示する。
中部地方整備局トップ > 河川部トップ > 中部地方ダム等管理フォローアップ委員会 > 平成24年度中部地方ダム等管理フォローアップ委員会
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/dam_followup/h24.htm
議事要旨
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/dam_followup/pdf/h24_gijiyoushi.pdf
★沖野委員発言 5ページ目 ⅳ)水質
•徳山ダム 定期報告書(案)事後評価書(案)【概要版】(PDF 12.26 MB)
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/dam_followup/pdf/h24_tokuyama-teiki.pdf
★ 水温鉛直分布グラフ p51
★ 水質まとめ p38~p40
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その他、湛水中も含め、底層の水質に関しての資料で国交省・事業者側HPに載っているもの
(2013/08/22 水機構 江部 確認))
◆ H25.7.30 第3回徳山ダムの弾力的な運用を考える意見交換会
・説明資料
http://homepage3.nifty.com/waterchubu/sub1/130730siryo.pdf
◆ 徳山ダム管理所トップページ ≫ 現在のダム状況≫ 徳山ダム水質情報
http://www.water.go.jp/chubu/tokuyama/reservoir/reservoir.html
★ 徳山ダム管理所トップページ ≫ 情報資料館 ≫ 見守っていこう大作戦(徳山ダムモニタリング部会等)≫ 徳山ダムモニタリング部会
http://www.water.go.jp/chubu/tokuyama/siryo_kan/04_02monita.html
第4回 説明資料 p31~
第5回 説明資料 p121~ 特に p133 p135
第6回 説明資料 p24~
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> (2)コスト削減のため、山林伐採をせずに貯水したため、
> 底に沈殿した有機質が分解し、同様の現象が起きた
1996年、私たちが徳山ダムに関わった頃は、「湛水線までは樹木伐採する」と盛んに伐採していた。それがいつの間にか「徳山ダムは、貯水量が巨大だから樹木伐採をしなくても有機物で富栄養化することはない」として樹木をそのまま沈めることにしてしまった。まさに「コスト削減第一」だったようだ。
2012年5月4日。水位が低下した日に。
•2012年5月4日 徳山[ 2012-05-06 ]
http://tokuyamad.exblog.jp/17519398/
また、この件に関係するかどうかはわからないが、大量に不法投棄された産廃について十分な調査もせずに沈めてしまっている。
水底に沈めてしまえば何もかも消してしまえると事業者は考えたのかもしれない。
しかし、沈めてしまっても消すことのできない「恨」がある。
それが今、水底から私たちに訴えかけている、そんなふうに感じている。
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