基本的人権としての自己情報コントロール権と「個人情報保護法見直し大綱」パブコメ |
2019年12月7-8日、名古屋で「秘密法反対全国ネットワーク交流会・再び それは秘密法から始まった-戦争する国づくりに抗して-」を名古屋で開催した。主催は「秘密法反対全国ネットワーク交流会2019実行委員会」。これ自体は、ほとんどネット上の団体なので、実務は幹事団体という名称で「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」が担い、筆者もその責任者の一人として企画・運営に携わった。
■ 秘密法と共謀罪に反対する愛知の会ブログ
◦ 秘密法反対全国ネットワーク交流会・再び に100人(名古屋) [ 2019-12-07 ]
https://nohimityu.exblog.jp/30622349/
◦ 秘密法反対全国ネットワーク交流会・再び 今後の展開を議論し終了 [ 2019-12-08 ]
https://nohimityu.exblog.jp/30622444/
■ 秘密法と共謀罪に反対する愛知の会のニュース「極秘通信」34号
http://www.nagoya.ombudsman.jp/himitsu/gokuhi34.pdf
2p、3p記事
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2日目(12月8日)の討論でも出されたが、その後にも《「秘密保護法」廃止へ!実行委》のほうから、「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」のパブコメに意見を出すようにしよう、という呼びかけがあった。
「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」に関する意見募集について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=240000058&Mode=0
案件番号 240000058 案の公示日 2019年12月13日
意見・情報受付開始日 2019年12月13日 意見・情報受付締切日 2020年01月14日
年末年始は相対的に時間の余裕があるとはいうものの、1月初・中旬締め切りの長めの原稿が(それぞれ分野が異なる)4つも重なっていて、躊躇を覚えたが、全国交流会をもった「義理」もある、無視できない。
パブコメに応じても、その意見がどれだけまともに読まれるか(検討されるか)は不明。正直、「パブコメという名称で『聞き置く』だけ。要するに『ガス抜き』」という見方もできる。しかし逆に言えば、「言いっ放し」が可能である、ともいえる(議論・論争をするわけではないので、牽強付会、荒っぽい決めつけ、吠えたいように吠える、ということもできる)。
12月14日に、愛知県弁護士会主催の「講演とパネルディスカッションシンポジウム『今、考えたい!AI vs 人権』」に参加し、山本龍彦・慶応大学教授の話を聞いてきたこともあって(※)、「個人情報保護」を憲法的な権利として位置づけよ、という方向で意見を出してみようと考えた。大垣警察市民監視違憲訴訟の原告としての当事者意識も反映させて。
※秘密法と共謀罪に反対する愛知の会のニュース「極秘通信」34号
http://www.nagoya.ombudsman.jp/himitsu/gokuhi34.pdf
4-5pの《愛知県弁護士会主催「今、考えたい!AI vs 人権」に参加して》参照
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■パブコメ対象資料
「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000196655
「言いっ放し」のつもりではあっても、提示された40ページの資料に目を通さないでは、何も書けない。
資料を読んでみると、褒め殺しも含めて結構突っ込める部分がある。
2020.1.13提出 個人情報法見直し大綱への近藤意見
http://www.tokuyamadam-chushi.net/sonota14/kojinjouhoukondouiken.pdf
まず、「個人情報保護」と憲法上の権利の問題。現行の個人情報保護法は、「お上が民間の個人情報の取り扱いを適正に導いてやる」観点が強く、個人の権利としての個人情報保護(別の言い方をすれば自己情報コントロール権)の観点が薄い(「無い」というべきか)。
EUは、EU基本権憲章(EU内各国に法的拘束力をもつ)第8条「個人情報の保護」を実現するものとして、2018年に個人情報に関する厳しい規制を企業に課す「GDPR(EU一般データ保護規則)」を施行した。
上記「見直し」もGDPRを意識しているので、《「個人情報保護」を憲法上の権利として位置づけよ》と何回でも述べることにした。
また、「第3章 第7節 官民を通じた個人情報の取扱い」という項目の中で「行政機関等では公権力を行使して個人情報を収集できることに鑑み、収集した個人情報の保護への信頼を確保する要請は非常に大きい」とあるのを捕まえて、
《警察など、ある意味、最も危険な(基本的人権を究極的に侵害しうる)行政機関を「例外」扱いにしてしまう個人情報保護のシステムは、「個人情報保護」の名に値しない。
「民間事業者を管理・監督する」というお上意識を前提とする個人情報保護法、行政の「善意」と無謬性を前提にしている行政等個人情報保護法 (及びそれら運用に関する諸制度)はあらゆる意味で時代遅れである。
早急に憲法第3章、とりわけ13条の観点を踏まえて、「民間、行政機関、独立行政法人等に係る個人情報の保護に関する規定を集約・一体化し、これらの制度を委員会が一元的に所管する方向で、政府としての具体的な検討において、スケジュール感をもって主体的かつ積極的に取り組む」を実現して貰いたい。》
と吠えておいた。
上述の通り、パブコメで吠えたら実現するというものではないが、機会があれば、「ものを言う」ことは必要だと考える。
総務省のパブコメのページに上がっているだけでも、常時、相当数のものがある。それぞれに、言うべきことは多々あるだろうが、個人が全てに対応することは物理的に不可能。それでも、それぞれの分野で、関心をもち、意見をもつ人間が積極的に「ものを言う」ことを実行していけば、「微力ではあっても無力ではない」「塵も積もれば大きな山」となりうると思う。
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熱心に上記パブコメを呼びかけた《「秘密保護法」廃止へ!実行委》メンバーのTさんから概要が以下のような問題提起が、全国交流会用のメーリスに投稿された。
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From: T
Sent: Tuesday, January 28, 2020 3:41 PM
Subject:: 共謀罪法と組織的犯罪処罰法、共謀共同正犯
前からずっともっていた問題意識です。共謀罪法は組織的犯罪処罰法第6条2項に包接されましたが、共謀罪法と組織的犯罪処罰法の関係はどうなるのか、組織的犯罪処罰法はどう変わるのか、考えてみました。
少し長文になりますので、PDFで添付しますが、ご一読いただければありがたいです。
相変わらず論理的整合性がないという批判をうけそうなので、簡単に「共謀罪と組織的犯罪処罰法、共謀共同正犯」の趣旨について説明しておきます。
1 、共謀罪・組織的犯罪処罰法は、団体を言論・人・資金の面から規制し、団体に打撃を与え、弱体化させようとする、新たなタイプ、第3 のタイプの団体規制法です。
その狙いは、捜査機関の判断で自在に運用できる治安立法にあります。
ただ、同法が適用されたからといって、その団体が団体活動の制限を受けるとか、解散されるとかいうことはありません。その限界を突破し、団体をつぶすためには、反社キャンペーン、あらゆる法律の適用、共謀共同正犯の適用などが一体となって適用されてくる可能性が大きいということです。
2 、 団体規制法の第1のタイプが破壊活動防止法です。
破防法は 1952 年制定された、団体活動の制限、団体の解散を目的とした治安立法ですが、オウム事件まで適用されたことはありませんでした。その破防法の団体解散がオウムに対して行われましたが、破防法団体適用の三つの要件である「団体性 、「政治性 」、「反覆性」のうち「反覆性」のところで、認められませんでした。それに政府・法務・検察は大打撃をうけ、 1999 年、組織的犯罪処罰法の制定に全力をあげたのです。
3 、団体規制法の第二のタイプが、暴力団対策法です。
1991 年制定された暴力団対策法は、暴力団の活動の様々な側面を「違法行為」とし 、「指定暴力団」とされた暴力団をガンジガラメにし、身動き取れないようにし、暴力団から組員を離反させることで、間接的に解散に追い込もうとする法律です。
暴力団対策法は 、 破防法とは違い、公安委員会が暴力団を指定暴力団にするかきめます。
破防法のような手続、適用がの要件が厳しものではなく、それを簡単にできるようにしたものが暴力団対策法です。
★共謀罪法をそれ自体として分析し、全面的に批判していくことは重要です。それと同時に、共謀罪が包摂される組織的犯罪処罰法とは何か、共謀罪が包摂されることでどうなるのか、という視点が必要に思われます。
もう少し詳しくは添付ファイルをご覧ください。
(添付ファイル:http://www.tokuyamadam-chushi.net/sonota14/20200128fromT.pdf )
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筆者(近藤)の返信
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From: 近藤ゆり子
Sent: Friday, January 31, 2020 1:05 AM
Subject: Re: 共謀罪法と組織的犯罪処罰法、共謀共同正犯
重要な問題提起をありがとうございます。
以下は、「感想/雑文」の類ですが、若干の問題意識をば。
1)破壊活動防止法については、成立時期が「もの心がつく前」ということで、私にとっては今一つリアルさを欠いてしまいます(「迫ってくる」感覚がもてない)。
オウム事件のとき「いよいよ適用するときが来たか」と緊張しましたが、「反復性」の面で適用されませんでした。
しかし、「団体規制法」をつくることで、公安調査庁を生き残らせ、「いつの日かの破防法適用」に備えている、と感じています。
悪法「破壊活動防止法」の悪質性は基本的に変わっていません。
2) 私がリアルに怖いと感じたのは暴力団対策法制定のときでした。
「暴力団を厳しく取り締まり、撲滅するのは良いことだ」との官民挙げたキャンペーンで、大きな反対運動もなく通ってしまいました。
T さんのご指摘の通り、「指定暴力団」の指定は公安委員会がしますが、公安委員会は独自の事務局を持たない-警察がまるっと事務方を担っています-。
つまりは「警察が指定する」のです。こんなことあっさり認めてしまう「世論」が怖い。
そして暴対法を根拠に暴排条例(暴力団排除条例)が各都道府県にできてしまっています。
これが、どれほど徹底的に人権を奪うか、については、是非映画「ヤクザと憲法」をどうぞご覧ください。
(本もあります。《東海テレビ取材班、「ヤクザと憲法 『暴排条例』は何を守るのか」、 岩波書店》)
3)Tさんが最後に指摘されたこと
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破防法が適用できず、 共謀罪・組織的犯罪処罰法も団体そのものの規制という点で限界がある中で、当面の捜査機関の団体規制の方向が明かになりつつあります。
●対象団体への反社会的キャンペーン
●あらゆる法律を拡大解釈し、 適用し、 団体の構成員をできるだけ多く逮捕する
●共謀共同正犯で団体の幹部を逮捕する
●共謀罪・組織的犯罪処罰法を活用できるとき活用する
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これは、まさに今、全日建関西生コン支部への弾圧で進行中のことですね。
産経新聞などは、「関西生コン支部は反社会的勢力だ」キャンペーンを全面展開しました。
普通の(?)新聞も、警察発表情報を垂れ流しに馴れてしまって、「正社員にしてほしい、保育園に出すので就労証明が欲しい」と労働者が使用者に求めたことを「強要罪容疑」と平気で書いてしまいます。(どう考えてもヘンです。正社員化を要求することが「強要罪」?!この分だと、賃上げを求めても「強要罪」になってしまう。警察がこんな発表をしたら、そのまま記事にする前にツッコミをかけるのが新聞記者の仕事だと思うのですけど)
4)大垣警察市民監視違憲訴訟原告の一人として(あくまでも「私」個人としての感想・意見)
2016年~2017年にかけての「共謀罪法案」のときに、結構あちこちで「大垣警察市民監視違憲訴訟」のことを採り上げて貰いました。
共謀罪法が施行されれば、一層おおっぴらに市民監視(反政府的な思想・信条をもつ人がターゲット)を強めるだろう、という意味では外れてはいません。
しかし共謀罪法のもつ「団体規制(団体潰し)」という側面からは「遠い」・・・原告4名は同じ「団体」に属して活動しているわけではありませんし、警察が事業者と「意見交換」をしている時点で、同じ運動をしているわけでもありませんでしたから。
逆に、今感じているのは、個人情報と憲法(人権)との関係(自己情報コントロール権というべきか)です。
よくも悪くも、今はカチっとした組織として活動できる団体は少ない(幹部役員の指示・指令で何事かが実行できるところはどれほどあるのでしょう?)。「組織・団体」に注目していても、(公安)警察にとって欲しい情報(例えば目を付けるべき新たなターゲット)はあまり入手できない。
…となればビッグデータを入手して解析し、そこから個々人の思想・信条の情報を入手するほうが効率的です。
EUのGDPRはEU憲章第八条(個人情報保護)に基づいていますが、日本では「自己情報コントロール権(自己情報決定権)-憲法に基づく人権として-」は裁判上、まだ認められるに至っていません。
特に、最も個人情報が集積され、最も濫用の危険のある警察が個人情報の収集・保有・利用することを統制する法律が不存在です。
(それでなくても穴だらけの「行政等個人情報保護法」は、警察については穴どころか、まるで適用外のような状態)
団体規制の法律(破防法、団体規制法、暴対法など)が危ういのは、個々人の人権を侵すと同時に、民主主義そのものを破壊することに繋がるからです。
大垣警察市民監視違憲訴訟原告の一人としては、「人権としての個人情報保護の権利の確立/特に対行政」という問題意識を、できるだけ広汎な人に持って貰うことが一つの獲得目標なのかな、と感じています-立憲主義・民主主義が危うくなっている現在だから。
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