映画「ふるさと」 |
人々の暮らしを水底に沈めて・・・。
できてしまったダム。
誰にとっても「現在の問題」であり続けている。
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★ 岐阜新聞 2021年05月02日 08:53 (動画あり)
ダムに沈んだ秘境の美 映画「ふるさと」
https://www.gifu-np.co.jp/news/20210502/20210502-66518.html

https://www.youtube.com/watch?v=9QRi59R1ODI&t=142s
揖斐川の最上流部、一面に広がる湖の下には今も"忘れがたき故郷(ふるさと)"―。ダムに沈みゆく岐阜県旧徳山村を舞台に、認知症の老人と隣家の少年の交流などを描いた映画「ふるさと」。その映像には、もう二度と見ることができない、美しい情景が刻み込まれている。
川のせせらぎ、山奥の素朴な原風景の中をダム工事のトラックが行き交う。舞台は谷筋の小さな集落・戸入(とにゅう)地区。夏のある日、老人伝三は、隣家に住む少年千太郎に「アマゴが釣りたい」とせがまれる。
千太郎役は、一般公募で選ばれた羽島市の小学4年生、浅井晋さん。現在48歳、岐阜を離れている。1カ月以上かかったロケについて「レフ板がまぶしくて慣れるまではとまどったが、全てが楽しい時間だった。印象深いのはポスターにもなった秘境の場面で、源流域の川の美しさが目に焼き付いている」と思い返す。見せ場は、具合が悪くなった伝三のために山を駆け、転びながら助けを呼びに行くシーン。「一発OKだったはず。どう転べばわざとらしく見えないか、木の根に足を引っかけるなど工夫をした」
建設関係の仕事に携わる浅井さん。「あの映画は人生の原点のような存在。さまざまな役割の人が関わって一つの作品ができることを体感した。それが今の職業につながっている」と振り返る。
浅井さんの母恵子さん(75)=羽島市=は徳山村出身。撮影現場に何度も足を運んだが「当時はまだ実家もあり、ここがダムに沈むという感じはなかった。後になって、永久に見られないものが映画に記録されていることに気付いた」。父敬士さん(76)も「息子の姿とともに、かつての風景が残ったことは感慨深い」としみじみ。
ダム湖畔にある望郷施設「徳山会館」の脇には、水没地から移設された映画の記念碑が立つ。村出身の中村治彦館長(60)=本巣市=は「自然風景だけでなく、映像からは山の匂いを感じる」と懐かしむ。
村境の馬坂峠で、引っ越しの車列が連なる映画のラストシーン。雪が舞う中、車を止めた一家は、村を見つめ「これで見納め」と、伝三の遺骨に語り掛ける。
中村館長は、この場面でいつも胸をえぐられる。「映画公開後、あのラストを追うように、村民は次々に街へと下りて行った。ろうそくの火がすっと消えるように村が静かになった」。映画と現実が重なり合い、そして気付かされる。「大切な何かをたくさん置いてきてしまった。だけど、もう元には戻らない」
【作品紹介】
1983年公開。旧徳山村の本郷、戸入地区などで撮影が行われた。主役の伝三は加藤嘉、息子夫婦は長門裕之、樫山文枝が演じた。他にも樹木希林、前田吟らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。岐阜市出身の神山征二郎監督がメガホンを取り、原作は同村ゆかりの児童文学作家、平方浩介さん著「じいと山のコボたち」。文化庁優秀映画奨励賞のほか、モスクワ国際映画祭では主演の加藤が最優秀男優賞を受賞した。
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