伊勢/神宮の川、商人の川② |
勢田川
【昭和49年7月の洪水(七夕洪水)では、勢田川の氾濫により伊勢市の広域にわたって浸水被害が発生しました。
この洪水を契機に昭和50年4月に一級河川の指定を受け、「工事実施基本計画」が策定され、直轄河川改修事業に着手しました。
被害が甚大であった勢田川では、昭和51年より直轄河川激甚災害対策特別緊急事業が実施され、浚渫や引提、護岸整備などを行い、昭和55年には勢田川防潮水門・排水機場が完成しました。】(三重河川国道事務所HPより)

勢田川沿いのコンクリートの(防潮用だろう)堤防を乗り越えて、畔に立ったみた(写真は河口から4km辺りで河口方面を撮った)。川面は静止して動かない。後で調べたら、旧暦10月15日の昼下がりだった、つまり丁度満潮だったのだ。
なお、勢田川防潮水門・排水機場は、河口から0.7km地点にあると三重河川国道事務所で聞いた。

勢田川沿いの河崎町は、舟運で栄えた町である。今、町並み保存で、川に沿って蔵が並んだ往時を幾分か偲ぶことができる。旧小川酒店を伊勢市が買い上げて、「伊勢・河崎商人館」として保存・開放している。代々続いた豪商の家は、なるほど保存の価値がある。
(前の「美濃橋」を撮ったとき、美濃市の「うだつの上がる町並み」にも立ち寄った。今も商売を続けている大きな酒造りのお店、いくつかの蔵のうちの一つをギャラリーとして開放しておいでだが、うっかりとその奥の奥までに迷い込んでしまった。お庭の手入れに来てた人に「何でここまで?」と言われて恐縮。)

この元小川酒造店の建物は川沿いではなく、狭い通りを挟んで川より遠い方に位置する。が、2階から向かいの蔵の屋根の先に勢田川が見えた。
通りの川沿いの家並みも、勢田川に直接面するのではなく並行した水路があって蔵が続いていた。洪水や大潮の干潮などのときにも、船からの荷揚げに支障が出ないように水位調整をするためなのだろうか? 誰かに尋ねてみたい。



船から荷揚げしてすぐに蔵に入れられるよう、蔵の横に川に向かって石階段が続いている。
蔵が水際に建ち並ぶ水面に亀が物憂げに動かずに居たのはご愛敬。

何度も言及するが、大垣の自宅から遠くない場所の水門川沿いに「住吉燈台」…松尾芭蕉「奥の細道」結びの地がある。ここにも昔は問屋が軒を連ねたと聞く。杭瀬川(揖斐川支流)をもっと遡った河口45kmほどのところの赤坂(中山道赤坂の宿)にも、川湊の跡がある。
明治になって鉄道が敷かれ、その後に道路網が発達するまで、舟運は人と物の往来には欠かせないものであった。
河川から水を引いて新田を開く… 農耕を中心とする日本社会においては長い間続けてきた営みみである。水田に水を取りすぎれば、船を浮かべる水量に満たなくなる。明治河川法の時代には、舟運の妨げにならない水量確保は河川管理者にとっても重要な事柄であっただろう。
だが、今のこの時代に木曽川河口部(木曽成戸地点)に毎秒50m3 流さねばならない理由の一つになるのは解せない(それが巨費を投じ、川を壊す施設建設の「理由」にされるのだから、なおさらである)
揖斐川最上流部の徳山村からは、段木が揖斐川に流されて、消費地である大垣などにやって来たという。川は、その川固有の「水」として海まで流れる。雨は森を育み、田畑を潤して海に至り、豊かな漁場を形成した。
同時にその川の流れは、人と物の運搬の役割をも担い、文化をも形づくった。
今は、コンクリート三面張り河川を賞賛する人はいない。が、今度は「多自然型川づくり」を持ち上げて全国に似たような画一的「多自然型」の川が次々と作られると、「ちょっと待ちぃや」である。
川は、どの川とも「全く同じ」川はない。それぞれに固有な深い自然的・歴史的背景を持つ。どこぞのコンサルが作った「多自然型」デザインを全国に押しつけるのでは、コンクリート三面張り河川を全国に押しつけてきたのと本質的には変わらないではないか。
人の「個の尊厳」を尊重しなければならないのと同様に、川も「その川の固有性-尊厳-」を尊重しなければならないはずである。
宮川水系も三重県という1つの県で完結する河川である。現在の一級河川から二級河川とする候補・53水系の1つとなっている。
単に河川管理者を国から県に変えただけでは、川は(悪くなることはあっても)良くはならない。
その川の流域に暮らし、その川固有の自然的・歴史的背景を知る人々が、どれだけその「川」に関われるのか。単に法整備・制度づくりを超えた「何か」が必要だろうが、それが何なのか、今の私には浮かばない。
PS:
なお「徳山ダム建設中止を求める会」事務局長ブログゆえ、「川」関係に絞ったが、今回の伊勢行きの目的は「伊勢というミュージアム的空間の探訪」であった。

往時の伊勢・古市の賑わいは、どのくらい知られているだろうか。面影を残す麻吉旅館に泊まった。(伊勢・古市 麻吉旅館)
(この稿終わり)